抗生剤の適正使用

先日の[感染症]カテゴリにも書いたのだが、抗生剤の適正使用を推進する前に、管理側はまず、治療する側の恐怖を知らなければならない。すなわち、抗生剤の選択をミスったら患者が死ぬかもしれないという恐怖である。

医師がブロードに抗生剤を使いたい理由は、おそらくここらへんだと思うのだ。とにかく広く、カバーしたい。だったらカルバペネムだ!となる理由はわかる。だって、先輩もそうやって治療してきたんだもの。感染で苦しんでいる患者使って実験なんて出来ないし、仕方がないじゃないか。

実際、どこでもそうだと思うのだ。どこでもそうだというのは、結局「実験が出来ないから云われたとおりにしか出来ない」という点。この点が、抗生剤の適正使用を邪魔している大きな要点だと思う。だから、抗生剤の適正使用を推進する側は、安易にブロードな抗生剤を許可制にする前に、肺炎球菌感染症を大容量のペニシリンで治してみせるべきなのだ。目の前でペニシリンを使って見る見るうちに患者が治れば、それを見た医師はペニシリンの有用性をちゃんと理解出来るだろう。一回では納得出来ないかもしれない。だが、それを繰り返すことでペニシリンを理解出来るのであれば、それは無意味なことではない。教育とはそういうものだ*1

もちろん、抗生剤の適正使用を妨げる要因は他にもある。ある大学の抗生剤使用状況を見せてもらったことがあるのだが、カルバペネムが五種類も採用されており*2、Aという内科とBという内科でくっきりと使用しているカルバペネムが違うのだ。こっちではAをいっぱい使っているけど、こっちではまったく使っていない、という状況。もうこれは苦笑せざるを得ない。理由は想像しか出来ないが、とても苦笑せざるを得ない。

こういうのはさっさと是正するべきなのだが、いろいろとややこしいのだろう。感染管理が純粋に感染管理の観点から論議出来なくなったとき、私たちに出来ることはない。いいとも悪いとも云えない。ただもう、ふーんといって見守るしかない。

*1:教育などという幻想に満ちたことばが成立するならば

*2:IPM/CS、MEPM、PAPM/BP、DRPM、BIPM。驚きの状況であり、まったく無駄だと思う