緒方洪庵・天然痘との闘い

NHK総合の「その時、歴史は動いた」11月28日放送分ですが、予習しておいただけあって、なかなか面白かったです。ほとんど知っている話しばかりだったんですが、細かいところのメモを取りながら、じっくりと見ました。

天然痘は、人類が撲滅しえた唯一の感染症です。これは「近代免疫学の父」と呼ばれるエドワード・ジェンナーの牛痘法によるところがきわめて大きいのですが、もうひとつ、天然痘が人間にしか感染しない感染症であったことも大きく関係しています。たとえば、日本脳炎のような、人間以外の動物が絡んでくる感染症は、ワクチンひとつで撲滅することはかなり難しいわけです。むかしは天然痘にかかった4人の子供のうち3人は死ぬとまで云われた感染症ですから、これが流行している地域の恐怖と云ったら、察するにあまりあります。

これは余談ですが、平城京で藤原4兄弟の命を相次いで奪ったのも天然痘だったと云われています。これによって日本の政治の中枢が瓦解しかけたわけですから、天然痘の破壊力はすさまじいと云わざるを得ません。ところで、緒方洪庵がワクチンの広告として出した絵は、牛に乗った童子が槍を持って赤い鬼のような存在を追い払っている、といったものでした。当時のワクチンは子供に植えて培養していたようですし、槍は牛痘を接種するときの器具そのものでしょう。牛は牛痘のことですよね。赤鬼は、そのまま天然痘に罹患した患者そのものでしょう。もしかしたら、これが赤鬼の起源なのかもしれませんね。

ところで、番組では触れられていませんでしたが、べつに天然痘ワクチンをはじめて実施したのが緒方洪庵だった、というわけではありません。番組では緒方洪庵が人痘法を試して患児を失ったくだりが描かれていましたが、この人痘法を最初に用いたのが緒方春朔でした。……というか、らしいです。私もあまり詳しくない上にあんまし調べてもいないので何とも云えないのですが、どうやら同じ緒方でも親子だったりとかはしないようです。緒方洪庵に比べてとても情報が少ないのですが、あまりメジャな話しではないようですね。

天然痘はもうすでに撲滅された感染症ですが、その偉大な功績の礎には、患者を救うという信念を持ち続けた先駆者たちの地道な活動があったわけです。私も病院勤めの医療従事者の端くれ、そうありたいものだなあと思います。