SIRの功罪

細菌検査を出したら、検体に存在していた細菌の種類と、起炎菌だと思われるものについては薬剤感受性試験の結果が帰ってきます。おのおの試験した薬剤について、SIRの判定付きで帰ってきますね。Sだったら効く、Rだったら効かない。Iだったら用量依存性です。常用量よりも多めに使えば効くかもしれない、くらいに思っていたらいいでしょう。常用量では無効であることが多いです。

ところがこの、「用量依存性」という概念を理解出来ないDrが多いような気がします。理解出来ないというか、抗菌薬を増量して使うという経験がないために、誰も増量しようとはしないのです。いや、増量という概念すらないと思います。どうやらDrのなかには、「効く」か「効かない」かの、二種類しかないようなのですね。「効かない」なら何をやっても効かない、と思い込んでいるらしく、そのためか臨床的に無効である場合はどんどんブロードな抗生剤を使っていく傾向があります。「CAZが効かないからCLDMも加えてみて、それでも効かないならIPM/CSに変えて、これでもダメならIPM/CSにMINOも加えて、ええい、それでも効かないならFLCZもいっしょにどうだ!」みたいな感じでしょうか*1。どんどん際限なくブロードになる傾向があります。決して、投与量が少ないかもしれない、という疑念は沸いてこないようです。添付文書通りにやってるもん!ということでしょうか。

だいたいCLSIの定めた判定基準なのに、日本の投与量に当てはめて判断すること自体、おかしい気がするんですが、どうでしょうか。たとえば、PIPCはP.aeruginosaに対して投与したとき、MIC次第ではS判定でも日本の常用量で効果がないことがあるようです。P.aeruginosa相手にPIPCを投与するときはほぼ間違いなく緊急事態ですから、大量頻回投与が必須です。4g×4/dayなんて過激な(?)処方例も見たことがあります。でも、そのくらいやって初めて確実に効くくらいの血中濃度になるようです。あるセミナの予告に、「添付文書通りでは患者は救えない」と書いてありましたが、まさにその通りかもしれません。日本の投与量は、PK-PD的に見て少な過ぎます。

*1:実際によく見ます