入院患者の肺炎

きょうは(きょうも?)入院患者の肺炎です。

画像が見づらい…

喀痰の性状は、Miller&Jones分類でP2、Geckler分類でG4。グラム染色で上記のような染色像でした。画像が悪くてかなりわかりにくいのですが*1、視野中にグラム陰性の短桿菌が散らばっているのが見えます。白血球の中に貪食されているのも確認出来ます。ここでちょっと首を傾げながら、「ああ、Haemophilusかな……?」と思って主治医に連絡。主治医はとくに重要だとは判断しなかったようで、このあと特に抗菌薬投与などはありませんでした。培養ではH.influenzaeとK.pneumoniaeが生えてきました。

このグラム染色像と患者属性でだいたい患者さんの様子が想像出来ます。電子カルテで患者情報がまるごと手に入る施設はいいのですが、私のトコのような貧相な施設だと、患者情報は主治医が伝票に記載してくれないとまったくわかりません。いつも想像するか、必要なときは主治医に尋ねることにしています。忙しいのにあまり根掘り葉掘り尋ねるのも気が引けるのですが……

さて、一見するとスライドではわざと中央にもってきている「グラム陽性球菌の貪食像」が目立ちますが、この奇妙な貪食像は全視野で数個単位しか見当たりませんでした。ほとんどの好中球は、「グラム陰性短桿菌」を貪食しています。ここで外来患者だと「Haemophilus肺炎かな……?」となるところなのですが、ふたつだけ疑問点があります。通常、Haemophilusってこんなに貪食されるものなのかなー?というのと、このときどき見えるグラム陽性球菌の貪食像は何かなー?です。

第一の疑問に関しては、これはちょっとわかりません。Haemophilusは莢膜をもっていますので、あまり白血球に貪食されないと思っていました。これはS.pneumoniaeも同じで、肺炎球菌性肺炎のスライドでもあまり多くは貪食されていないのです。これについては、よくわかりませんでした。培養ではHaemophilusが生えてきているので、いるのは間違いないと思うのですが……果たしてこの貪食されているものが本当にそうなのか……?

第二の疑問に関しては、明らかにグラム陽性球菌を貪食していますので、誤嚥性肺炎を示唆する所見だと思います。喀痰の見た目の割に(つまり膿性痰の割に)扁平上皮細胞が混入しているのもその見立てを支持していると思います。

で、ここまで考えて、主治医をコール。この患者さんは脳梗塞で入院してきた寝たきりの患者さんでした。この情報で、誤嚥性肺炎の可能性が上がりました。主治医にはHaemophilusが関与しているかもしれないということと、もしかしたら誤嚥性肺炎があるかもしれないことを伝えましたが、前述の通り、あまり重要だとは判断されなかったようで、抗菌薬投与はありませんでした。*2

もしエンピリックに抗菌薬投与するなら、CTRXでしょうか。普通の誤嚥性肺炎ならABPC/SBTでもいけそうですが、この喀痰で優位に見えているグラム陰性短桿菌がBLNARだとイヤなので、CTRXかなと思いました。CTRXは横隔膜上嫌気性菌をほとんどすべてカバーし、BLNARにも活性があります。Bacteroidesがちょっと苦手かもしれませんが……口腔内がとくに汚染されているような場合はとくにBacteroidesを考慮してABPC/SBTを高用量で……と考えますが、この場合は……CTXでもいいのかな?むむむ……CTXをちょっと多めに使えば、いちおうすべてカバーできるか……?こんな場合は、何が投与されるのでしょう?

重ねていいのであれば、CTRX+CLDMかなとか思いますが、さて、どうでしょうか。

*1:なんせ接眼レンズ越しに撮っているのである

*2:肺炎はなかったのか?ではなぜ喀痰培養を提出してきたのか?ミステリであります