バイオテロの恐怖

記憶に新しいバイオテロと云えば、炭疽菌でしょうか。

炭疽菌は正式にはBacillus anthracisと云いまして、土壌などに存在する環境性の雑菌です。検査技師であれば、培養するのにいかほどの手間もかかりません。きわめて生命力旺盛な菌で、自分にとって都合の悪い環境になると芽胞と呼ばれる状態になってじーっと耐えます。我慢強い子なわけです。そして自分の都合のいい環境になると(つまり人体などの栄養豊富で暖かい場所になると)、もとの栄養体に戻って活動を再開します。

アメリカの9.11事件のあとに起きた炭疽菌バイオテロでは、「郵便物に白い粉」という、従来の常識からかんっぺきに外れた方法で行われました。マニュアル大国のアメリカでは、空中散布のような誰もが可能性として考えるような方法に対してはばっちり対策がなされていたのですが、郵便物に対してはまったくの想定外だったわけです。まあ普通はヘリコプタなどによる空中散布の方が圧倒的に効率はいいはずで、それこそ貿易センタービルに突っ込んでいった飛行機に大量の炭疽菌を詰め込んでおけば空中散布は達成出来たはずなのです。そういう想定はされていたものの、だからこそ郵便物はきわめて意外な手段でした。カミソリレターの微生物verです。

日本にいると、炭疽はまずもってお目にかかることはないでしょう。これはもともとヤギやヒツジなどの感染症で、人間にも同時に感染する人畜共通感染症です。ヒツジやヤギの放牧をしていない日本では、珍しい感染症だと云えるでしょう。ただし、炭疽菌の培養はどこの施設でも可能です。白い粉を作ることは比較的容易な作業です。事実、日本でも、アメリカでも、ソ連でも、同じように生物兵器として研究されてきました。こういった病原体を都心部でばらまくことがいかに恐ろしい結果を招くのか、想像しただけでも明白です。天然痘、野兎病、ニパウィルス etc,etc……恐ろしい話しです。

ちなみに、炭疽菌にはシプロ、というイメージが定着していますが、別にシプロだけじゃなくても、PCGでもいけますし、TC系でもOKです。セフェムはよくないかな……シプロがなければ、LVFXなどの別のキノロンでもOKです。PZFXは和製キノロンですのでデータがなく、炭疽に効くかどうかは知りません。感染症界の大御所バートレットは、クリンダマイシンをかませることを提案しているそうです。劇症型A群のときと同じ考え方ですね。