血液脳関門について

Wikipediaによりますと、

血液脳関門(けつえきのうかんもん 英 blood-brain barrier, BBB)とは、血液と脳(そして脊髄を含む中枢神経系)の組織液との間の物質交換を制限する機構である。これは実質的に「血液と脳脊髄液との間の物質交換を制限する機構」=血液髄液関門 (blood-CSF barrier) でもあることになる。

とあります。

髄膜炎や脳膿瘍を治療する場合、治療薬がこの血液脳関門をクリアできなければ、治療することが出来ません。ただなんとなく抗生物質を選択すると、とんでもない目にあいます。たとえば、S.aureus(MSSA)による脳膿瘍、これが敗血症ならCEZが第一選択ですが、CEZは血液脳関門を通過することが出来ないため、治療に使うことは出来ません。一般的に、CEZなどの第1世代のセフェムは血液脳関門を通過することが出来ないため、中枢神経系の感染症に使うことは出来ないわけです。まあ、常識的な話ですが…

この血液脳関門、髄膜炎などの炎症時には破綻してしまい、ある程度の薬剤を通過させるようになります。これは脳膿瘍などのマクロな感染症であっても同様で、炎症があってはじめて治療が可能な濃度に達する、という薬剤がけっこうあるようです。これはつまり、炎症がないと治療が出来ない、ということを意味しています。(当たり前じゃねえか、という突っ込みはさておき……)

他にも、血液脳関門を通過出来ない薬剤はたくさんあります。テトラサイクリン系(×)、アミノグリコシド系(×)、EM(×)、CLDM(×)です。これらの薬剤は、炎症があっても血液脳関門を通過出来ないようです。IPM/CSも透過がよくないので、治療域に達しない可能性があります。VCMの透過性もよくないので、炎症がないと治療可能域にまで達しない可能性があります。カルバペネムならMEPMの方が透過性はよいようですが、詳しいことは成書を調べてくださいまし。

さて……
困ったことに、MSSAによる脳膿瘍、これを効果的に治療出来る抗菌薬がありません。CEZは血液脳関門を通過出来ませんので、使えません。ペニシリン系はβラクタマーゼのために使うことが出来ません。はてさて……やはり3世代の、CTX、CTRXあたりになるのでしょうか?む、む、む……

専門書を読むと、クロキサシリンやナフシリンがよく出てきますが、日本にないじゃん、バカヤロー、ってよく突っ込みます。良いと思う本はたいてい翻訳本で、そのせいだと思いますが……

(純日本製だと思われる本にはときどき、MSSAの敗血症にIPM/CSとかそういう類いの寝言が書いてあってぶっ飛びます)