肺炎の外来治療

日本感染症学会と日本化学療法学会の指針では、人工呼吸器が必要な重篤な肺炎に対しては、第4世代CZOP(商品名ファーストシン)かカルバペネムにエリスロマイシンやダラシンを追加しても良い、ということになっています。ちょっと古いものを見ているので、いまは方針が変わっているかもしれません。(怠慢ですね)

困ったことに、世界的に見てもCZOPを採用している国は珍しいと思います。米国では、第四世代に分類されるセフェムは、たしかCFPMだけだったのではないでしょうか。私としては、人工呼吸器を必要とするような重症肺炎に関しては、(血液培養・喀痰を採取したうえで)カルバペネムを使ってもいいのではないかと思います。ただし、起炎菌の見当がまったくつかないとき限定です。カルバペネムは温存されるべき抗菌薬というスタンスは変わりません。その視点で云うなら、CZOPでもかまわない。でも、第四世代のセフェムとカルバペネムの差を説明しろ、と云われると、ちょっと難しい。悩みます。ですので、CZOPもいっしょに温存してしまうのがベストです。

具体的な差としては、カルバペネムの方が嫌気のカバーがいい、というのは挙げられると思います。どの程度差があるか、と突っ込まれると辛いところですが……Bacteroidesのカバーについては、カルバペネムに軍配が上がると思います。ただ、これ以上の差があるのかと云われると……悩みますね。個人的には、CFPMはFN時の熱発に使ってほしいところです。PIPC+TOBと比べてどうか、と云われると、何とも返答出来ませんが(自爆してますね)。

さて。
私が重症肺炎にカルバペネムがいいんじゃないかと思う理由は、ようするに嫌気性菌のカバーの差です。ただし、誤嚥性肺炎でよく問題になるのは横隔膜上嫌気性菌、Peptostreptococcus、Fusobacteriumなどであり、これらに対する抗菌力は、CZOPもカルバペネムも大して差はないと思います。ただ単に、スタディの多さでカルバペネムがいいんじゃないかと思うだけです。IPM/CSなら1日4回をがっつりやるのが大切だと思います。CZOPを使うなら、朝夕二回はやめた方がいいでしょう。

外来治療がさかんな米国では、CTRX+GMなどが外来で使われるようです。日本でも外来治療にチャレンジする事例を見ますが、困ったことに(ほんとに困ったことに!)CZOPを使う医師がいるようですね。これはとてもよくないと思います。そもそも外来でフォロー出来るくらいであれば、CZOPの適用にはならないはずです。この時点で、すでにおかしい。もっと致命的なことを云いますと、そもそもCZOPの半減期はせいぜい2時間程度であり、1日1回投与の対象にはならないのではないかと思います。外来治療でよく使われるCTRXは半減期が7時間程度あり、これは1日一回投与が可能です。中途半端に耐性菌を選択するだけだと思います。たぶん、一時的には良くなると思いますが……

先の指針は、もちろん入院治療について述べた部分です。外来でCZOPを使うには、1日1回では量が足りないと思います。やめた方がよいでしょう。

(ちなみにCTRXも横隔膜上嫌気性菌をカバーしますので、誤嚥性肺炎やS.pneumoniae肺炎、H,influenzae肺炎と広くカバーします。カルバペネム並みの切り札と認識しましょう)

若干追記

若干追記します。

CZOPの半減期は、1g静注した場合は1.5時間程度のようです。peak値は87.1(μg/ml)のようです。そこで、仮に1日1回、1gを静注したとしましょう。

半減期が1.5時間であれば、24時間後には血中濃度が65536分の1になります(笑)。もう笑うしかありませんね。PK-PD的に考えると、CZOPはβラクタム剤ですから、TAM>40%を実現すれば「効果あり」ということになります。仮にMICが1(μg/ml)の細菌が標的だと仮定して、MIC以上の血中濃度を保っていられる時間はおよそ9時間程度になると思います。1日1回しか投与しませんから、TAMは38%程度でしょうか。ぎりぎりですね。これ以上MICの高い菌に対しては、おそらく無効ではないかと思います。腎臓に不安のない成人であれば、CZOPの外来一回投与はかぎりなくクロに近いグレーだと思います。以上が、私がそのように考える根拠です。

1gを1時間かけて点滴静注した場合はどうでしょうか。この場合も半減期は1.59時間ですが、peakは68.3(μg/ml)、点滴をはじめて10時間後くらいには血中濃度が2(μg/ml)になるようです(添付文書の薬物動態より)。MICが2(μg/ml)くらいまでなら、TAM>40%を実現出来そうですね。

まあ云わずもがなですが、セフェム系は肺に対する移行が悪いため、とうぜん理論通りにはいきません。血中濃度よりも肺病変中の濃度は低いことが予想されるため、1日1回では失敗するであろうという予想がされます。おすすめは出来ません。