経験的治療に感受性率が役に立つか?

毎年一回、検出菌の感受性率をまとめて発表しているんですが、いったいどれだけの医師がこれを見ているのか、疑問に思っています。もしかしたら感受性の結果も見てないんじゃないかなぁ、と思わせるようなことが数回続いたのが疑問の直接的なきっかけですが、ちょっと考えると、やはり医師はあまり感受性の結果を気にしていないのではないかと思わせることが多いように思います。菌別の感受性率もちゃんと見れば役に立つんですが、見ていない医師が多いように思う。これは医師の疑問に答えていないためではないかと考えています。

といいますのも、たとえば純培養状に単一菌が検出される疾患って、比較的マレですよね?静脈血やカテーテルの培養などはたいてい純培養状に出てきますし、肺炎なんかでもうまくやれば純培養状に分離出来たりしますが、そもそも菌血症や敗血症、肺炎などのクリティカルに近い状況では培養の結果なんか待ってないわけです。経験的に起炎菌を推測して治療します。そこで肺炎を考えると、たとえば慢性気管支炎の急性増悪像だったら起炎菌はコレとコレ、高齢者の市中肺炎だからコレとコレ、と云った具合に、起炎菌を単一に絞ることは難しい。本当ならグラム染色がここで役に立つんですが、それでも入院患者の導尿から出てきたグラム陰性桿菌などは腸内細菌なのか非発酵菌なのか、判断しかねると思います。培養結果を待たずに治療する場合、これらの可能性をすべてカバーするわけです。

で、そうやって考えると、広域に使ってあとで狭める、のが使い方になってくると思うのですが、狭めるのに感受性結果を使うわけですね。腎盂腎炎で敗血症疑い、最初はチエナム使ってたけど起炎菌はE.coliだった。CTM(S)だったから、IPM/CS→CTMね、という感じです。通常、感受性率の結果は経験的に治療する場合に使うと思うのですが、起炎菌もわからんのに菌ごとの感受性率なんか考えていられるか、というのが治療者の言い分ではないかと思います。肺炎に対する奏功率、なら見てくれるかもしれませんが。

経験的治療に感受性率は役に立つはずです。感受性率が8割切っていたら、1stには使いにくい。でも医師は治療者ですから、疾患に対して抗菌薬を投与するわけですね。検査技師は菌を直接見ていますから、どうしても菌に対して投与するのが常識、と思ってしまいます。だから菌ごとの感受性率を出して満足するわけですが、それでは不十分なのではないかと最近思っています。むずかしい。