LVFXの不思議

日本のLVFXは不思議な薬剤である。不思議というか、不可解なのだ。
まず剤形が錠剤しかない。点滴が存在しないキノロンなのである。したがって超急性の、一分一秒を争うような(たとえば、V.vulnificusのような)感染症には使いづらい。が、これにはまだCPFXなどの代替薬が存在するため、さほど強烈な問題ではないだろうと思われる。問題なのは、その投与方法なのだ。

不思議なことに、LVFXの添付文章には、「1回100mg(錠:1錠または細粒:1g)を1日2〜3回経口投与する」とされている。つまり、一日総量300mgを、三回に分けて分割投与するわけだ。

何が不思議かというと、キノロンは一般的には殺菌的に作用する、濃度依存性薬剤なのである。濃度依存性薬剤は血中の最高濃度が高ければ高いほど効果を発揮するという特徴があり、薬理学的に云えば、その薬効はCmax/MIC、AUC/MICに比例する。つまりLVFXを最大限活用したいと思えば、とうぜん血中の最高到達濃度を上げてやる(Cmax)のがベストなのだ。添付文書が、LVFXの活用を邪魔しているのである。薬理学的には一日総量を一回投与してやるのが正しいはずだ。患者さんは薬を飲むが一日一回ですむわけで、看護婦も一日に何回も患者さんに薬を飲まさずにすむ。薬効も高い。申し分がない。

でもまあ、添付文書の云いたいこともわからないわけではなく、おそらくこれは副作用を警戒した処方だと思われます。LVFXは濃度依存性薬剤だということを述べましたが、その副作用もまた濃度依存性なのです。つまり血中濃度が高いと、副作用もまたよく発現してしまうわけですね。これがまずい。でも耐性肺炎球菌などを治療するときにはLVFXはいい選択で、しかもちゃんと肺炎球菌を治療しようと思えば、じつは添付文書の処方だと不十分な可能性があります。これがLVFXの不思議です。


ちまたでは尿路感染症にはSTかキノロン!とされているようですが、検査室側から云えば、LVFXは使って欲しくありません。肺炎球菌に対して活性の高いLVFXは、ぜひ肺炎球菌治療に使って欲しいものです。

論文をひとつ紹介しておきます。
http://journal.chemotherapy.or.jp/full/05111/051110711.pdf