すばらしきかな日本酒

少々早いながらも、5時から店に入って(ひとりで)日本酒をかっ喰らう。ひとり酒である。だって、ひとりで来た出張だもの。

この日本酒が素晴らしくおいしかった。こんなこともできるから日本酒は侮れない、とは、「もやしもん」に出てきたセリフだったように思うが、たしかに日本酒はすばらしい。とてもおいしかった。愛知の地酒、蓬莱泉「空」である。

知る人ぞ知る、幻の吟醸酒ともいわれる逸品らしい。幻の名に恥じぬ入手の困難さで、さらに稀有なことに、幻の名に恥じぬおいしさである。冷酒は極めておいしかったが、同じ蔵元の別の酒もおいしかった。もちろん料理もおいしかった。隣のカップルの雰囲気が悪くなかったら、もっと最高だった。

とりあえず家においておきたい逸品だが、どうやら一年に三回しか出荷されず、Webで販売開始後3分で売り切れると聞いた。とても入手は困難だが、私のような舌のあまりきかないにわか酔っ払いは、おそらく前座で出て来た「べし」とやらで十分である。こっちもおいしかった。メニュに載っていないので、どういう字を書くのかわからない。ぜひ買って帰りたいので、いまから夜の街に繰り出そうと思ふ。

ところで、私の後から入って来たおっちゃんが、担架に載せられて静かに運ばれていった。まさしくリタイアといった感で、おそらく急性アルコール中毒であろう。命に別条なさそうだったので書いてしまうが、ああいう飲み屋では絶対に酔っ払ってはいけない。少なくとも、酔っ払いであることを表に出してはいけない。それが外で酒をたしなむ際の絶対遵守すべきマナーである。欧米では社会的に抹殺されかねないくらいの罰を受けると聞くが、日本でもそうあるべきであると思う。

担架が来るまで、そういう患者がいることすら気がつかなかった。慣れたものである。妙なことで感心してしまったが、そこらへんはプロフェッショナルなのであろう。担架も極めて粛々と撤収していった。何とも静かな夜である。