レジデント初期研修用資料が面白い

レジデント初期研修用資料(http://medt00lz.s59.xrea.com/)が面白い。医療関係者以外がこれを読むとちょっと眉をひそめるかもしれないけれども、こういう考え方はあってもいいと思う。というか、これが現実だし。

抗生剤の処方の相談をされると、いつも現実と理想のギャップに直面する。この場合、これでほぼ問題ないはずなんだけど、この検査結果は何か不安……ということはしばしばある。「ターミナルな患者さんで誤嚥性肺炎だと思うんだけど、抗生剤何がいいですかねえ」という質問はときどきあるのだが、こうなるともう、カルバペネム一択になってしまうのだ(いちおうグラム染色を見た上で考えますが)。カルバペネムは、「もうこれ以上がんばる余地のない最終兵器」であり、これを使ってダメだったら諦められる、という抗生剤でもある。つまり、これは医療側の精神安定剤でもあるのだ。医学的には死に向かいつつある患者さんを前にして、「誤嚥性肺炎なんだから、理論的には……」なんて話は通用しないのである。家族は主治医が何か適切な手を打てば患者が助かると信じている、そしてその「適切な手」とやらに何か瑕疵があったら、あとで責められかねない時代になってしまったのである。

誤嚥性肺炎なのだからもちろんABPC/SBTでもいいわけだし、CTRXでもいいわけだし、ショックを起こしてなければキノロン内服でもいいわけだ。ところが、こいつらにはそれぞれ弱点がある。もちろんカルバペネムにだって弱点はある(VAPのS.maltophiliaには効かない)のだが、みんなカルバペネムは最強の抗生剤だと信じているので、これを使ってダメだったら仕方がないという雰囲気は確実にある。カルバペネムが乱用されるのも仕方がないとは思う。

ただ、意味もなく使い続けるのは明らかにおかしいし、不適切だと云えるシーンがある。そういうときに、ちゃんと思考を切り替えられるかどうかがひとつの分かれ目かとは思う……何にせよ、こういう現実に根ざした資料は、とても勉強になる。

ところで、私が以前、「血が騒ぐ」と云ったのは、「(説明魔としての)血が騒ぐ」ということで、別にエビデンスを引っ張りだしてきて相手を叩きのめそうと云うわけじゃないんですよ。いざとなったら戦いますけど……