季節外れのO-157

ちょっと珍しい、季節外れのO-157

O-157感染症ってのはだいたい先進国の下痢症で、だいたい出現時期が夏なんですよね。私自身、冬に見たのははじめてです。まあ原因食材を食べれば季節に関係なく起きるのは当たり前で、その点では不思議でもなんでもないんですが……

激しい下痢のせいか腸内細菌層は乱れまくっていました。O-1群も同時に検出されたりしているんですが、まあ、こっちはほとんど意味を為さない結果でしょう(O-1群が検出されても病原性があるかどうかはわからない)。患者さんは出血性の下痢で救急外来を受診、その後に内科の外来でフォローになったようです。救急受診のときの便で、CTS-MacConkeyで綺麗なソルビトール遅分解のコロニーが分離出来ました。見た瞬間にそれとわかる、いかにもな感じのコロニーです。へえー、って感じですね(笑)。欧米ではソルビトールをちゃんと分解するO-157がいるそうです。これは前にも書いたっけ?

内科でフォローしたときにはもうすでにほとんど症状が消えかかっていたようで、患者さんはピンピンしていたとか。志賀毒素は(+)でしたので先生に連絡する前にとりあえず生化学とCBCとをチェックしたんですが、どうも検査データ的にはHUSなんかとは無縁のような感じでした。話を聞いてみると、ほとんど熱が出てない、出血性の下痢が頻回の患者さんで、症状的には最初からO-157をうかがわせるような患者さんだったようです(原因食材不明)。除菌したほうがいいのかどうかを聞かれましたが、ほっておいたら勝手に消えるんじゃないでしょうか、が私の答えです。

O-157の抗生剤治療については私も知識が古いのでなんとも云えないところがあるのですが、抗生剤を投与することについては、明確なメリットはなかったんじゃないかと思います(病期が短縮したりはしないらしい)。逆に抗生剤を投与することによって菌の溶解を促進し、志賀毒素をばらまくことになるのでやめたほうがよい、という話じゃなかったかと。感染性腸炎についてはFOMが汎用されていますが、FOMについては悪い報告もないらしく、どうしても投与したいのであれば、ぎりぎり投与してみてもいいんじゃないかと思います。O-157感染症が仮にHUSに発展したとしても、結局は維持療法しかありませんので、同じことじゃないかと思いますが……

あるとき、HUSのときも維持療法しかないらしいですね、という話をしたとき、猛烈に反対されたのにびっくりしました。いわく、ケースバイケースで、一律に維持療法しかないと決めることは出来ない、とのこと。まあケースバイケースってのは、そうだろうなと思いますが、「溶菌を促進し、志賀毒素をばらまく可能性がある」のであれば、この場合、ケースバイケースもくそもないと思うのですが……多量の菌が存在していることで症状を悪化させている可能性もある、と考えれば、それも(ぎりぎり)考え方としてはありなのかもしれないとは思います。ただ、O-157は自然消失する菌であり、「HUSを起こす頃には消えていることもある(レジデントのための感染症診療マニュアル第二版)」ということなので、私はこの点で維持療法しかないのだろうなと思ってはいますが(だから抗生剤を投与しても悪化させることにはならないのかもしれないと考えてみたりもします)。

ちなみに、HUSのときにガンガン抗生剤をぶち込めと書いた文献は見つけられませんでした。たぶん、一般的には投与しちゃダメなんでしょう。