眼科領域の感染症

基本的に、眼科領域の感染症は専門家のフィールドです。内科、外科などの一般的な診療科が疾患の治癒を目指して治療するのはとうぜんのことですが、これらの診療科の「死」が肉体的な「死」を意味するのに対して、眼科領域での「死」は「失明」を意味します。内科的、外科的な感覚で診療していると、思わぬところで眼科的な疾患を見逃すことになりかねないので、基本的には徴候を発見して専門科にすかさず送る、というのが仕事になるようです。

眼科感染症的に怖いのが、ブドウ糖非発酵菌の存在です。これはコンタクトレンズが普及するにつれて増えて来た新しい感染症の仲間で、角膜との親和性が高く、眼内炎を起こすと非常に予後が悪いようです。コンタクトレンズとくればアメーバですが、印象としてはブドウ糖非発酵菌の方が多い気がします。あとは、真菌性眼内炎。乱暴にまとめてしまえば、細菌性眼内炎、真菌性眼内炎、アメーバ性眼内炎の三つが微生物的に検索されます。アメーバは少し特殊なので、検査室にそう伝えないかぎりは検索してもらえないとは思いますが。

この分野でもっとも困るのは、「細菌培養」と書かれた伝票だけがまわって来て、患者情報がまったくないパターン。何をどう検索したらいいのか、まったくわかりません。いちおうちゃんと主治医に聞くようにはしているんですが、時間がないときは広範囲にカバーするようにしていますので、淋菌性結膜炎あたりまで頑張ります。というか、年齢によっては頑張らざるを得ないです。困ったもんだ。

入院患者では真菌性眼内炎が恐ろしいです。長期にCandida血症を起こしていると起こしやすいと云われています。IVHに関連する眼内炎と云ってもいいんじゃないでしょうか。これまたやっかいな感染症です。

「眼科領域の感染症」というにはちょっと少な過ぎますが、微生物的にはこの程度でしょうか。人体のうちもっとも抗菌薬が届きにくい臓器*1のひとつが眼球です。これが治療の難しさをさらに引き上げているのではないかと思います。

*1:髄膜、眼球、前立腺がやっかいな三大臓器