何だかよくわからないんだけど

なんだかよくわからないんだけど、とりあえず治療してみよう……

なんていうこと事例をときどき見かけます。とても心臓に悪いです。患者さんのためにならないので出来るだけやめたほうがいいんじゃないかなあといつも思うのですが、このテの提案を主治医が聞いてくれたことはありません。悲しい。

感染性心内膜炎疑いの患者がいます。症状はほとんどないのですが、急いで治療しなければならない理由がひとつだけあったので、主治医は血培1セットだけ採って、起炎菌不明で治療を始めてしまいました。あれだけ待ったほうがいいって云ったのに……抗菌薬をはじめた後に2セット追加で血培が出ましたが、案の定、ぜんぶ陰性になりました。けっきょく、どうやってIEと診断するつもりなのかわかりませんが(Dukeの診断基準を満たさないのでは?)、こういう事態は患者さんのためにならないと思います。

で、私がいつもそういうときに考えるのは、「なんて論理的でないんだろう!」ということです。私が云いたいのは、なんで、「なんでだろう」と考えないんだろう、ということなのです。

私もよく「(細菌は)ナマモノだからね」というのですが、医学というのは、このテの非論理的な思考がまかり通っているような気がします。「こういうこともあるだろう(人間だし)」という思考がまかり通っているわけですね。ホントはそんなことない、大半の症例は教科書通りに進行するわけですが、系統立てて考えていないので、ちょっとわからないことがあると「そういうこともあるだろう」となってしまうわけです。

「昔にこうやってうまいこといった」=「だからこんかいもうまくいく」というわけじゃない。これは当たり前のことです。To error is humanとはよくいったものですが、それとはまた別に、大きなミスというのは過去の経験に基づいて起きるものです。感染性心内膜炎は起炎菌によって治療が変わる感染症で、場合によってはGMをかまします。その主治医は、「最初からPCGとGMを使っていれば(起炎菌不明でも)いいんじゃないの?」というわけですが、治療期間は4weekですから、運悪く腎機能が悪くなったとき、これを切るかどうかの判断をどうにかしてしないといけません。起炎菌不明のままだと、その根拠がない。またそもそも起炎菌が不明だった場合、S.aureusが犯人だったりすると、目も当てられません(この場合は症状がマイルドだということはほとんどないので、自然と除外されますが)。まあともかく、治療期間が長ければ長いほど、ちゃんと起炎菌を同定することは重要だなあと思うわけです。

論理的に、論理的に。よく、「理屈じゃない」ということばを聞きますが、たいていの物事は理屈に従って動きます。レアケースばかりを引き寄せているならともかく、普通の医者はちょっと論理的過ぎて心配性な方がいいんじゃないかと感じています。