検査結果がすべて?

検査の結果を100%信じてくれる主治医がいます。検査技師としてはありがたいかぎりなのですが、こういう医師に限って検査至上主義者みたいになってしまって、何でもかんでも検査を出しておけばよいという考えに取り付かれがちな気がします。検査を出してから考える医師が多いように思うわけです。下手な鉄砲、数打ちゃ当たる、でしょうか。残念ながら、下手な鉄砲は撃つと自分に返ってきます。

感度が95%、特異度が95%の検査があったとします。これさえ陽性なら診断がつく、という検査です。100人の陽性患者を検査をしたら95人まで正確に診断がつきますが、残念ながら5人は見逃してしまい、診断がつきません。100%検査だけに頼っていると、頭をひねって、首を傾げることになります。現実にはこんなことはありえませんが、まあ仮定として話しを進めてみましょう。

ここで問題になるのは、検査前確率です。この検査は特異度が95%ですから、100人の陰性患者のうち、5人は間違って陽性と判定されます。つまり、間違って診断されるわけです。とても怖いですね。現実にはありえない話しですが、これに近いことが現実に起こりえます。

ここまで書いたら、検査前確率の高い集団に行う場合とそうでない場合、どちらが有意義かは明確でしょう。検査前確率の低い集団に検査を行うことは、偽陽性を誘発します。つまり、診断の妨げになりえます。じっさい、この検査さえ陽性でなければ辻褄が合うんだけどなあ、という話しはよく聞きます。微生物検査で云えば、β-Dグルカン測定がそうです。

まるで真菌血症を検出するための魔法の検査みたいに思われているようですが、検査前確率の低い集団に実施することは偽陽性を出しますので、極力控えるべきです。CD toxinのスクリーニングも同様です。普通便に実施する意義はありません。

逆に云えば、検査オーダが出ていなくても、状況から判断して怪しいと思えば、私は勝手に検査を追加します。確信があれば、かなりの確率で意味のある結果が出ます。意外かもしれませんが、意外に(ほんとに意外に)医療の世界は確率の世界なのです。