よくわからない患者

さいきん、主治医にいろいろ聞かれることが多くなってきました。表面上は聞かれたことに答えているので「教えている」ように見えるのですが、じつは私の方が患者さんの状態や治療のレスポンスを聞きかじって「教えてもらっている」わけで、とても勉強になります。

きょうは膠原病の診断でステロイド治療している患者さん。

  1. 喀痰からM.avium
  2. 血液培養からMRSA
  3. β-Dグルカン陽性(58)
  4. 尿培養からMRSA、Enterococci、酵母様真菌(白血球は見えない)

などなど。レントゲンはきれいで、とくに問題ないそうです。IVHなどのカテーテル類はなし。泌尿器科的な基礎疾患があるらしく、数日前に泌尿器科的な処置を実施。その後、熱発、血液培養陽性。MRSAでした。β-Dグルカンは、IPM/CSで治療しても反応が鈍かったので出してみたら陽性だった……ということです。(培養せずに治療するのはやめてくれ)

主治医のセンセ曰く、「あちこちから菌が出過ぎて、わけがわからない」とのこと。まあここまで出てきたら、泣きたくもなるでしょう。どれを治療対象にしたらいいのかわからない、と嘆いていました。そんなこと、私に云われてもわかりません(苦笑)。非定型抗酸菌はいまのところそっとしておいたらいいんじゃないかなと思いましたが、MRSAは絶対的な治療対象です。β-Dグルカンは、いまのところ無視してもいいかなと思いました。真菌血症の証拠としては、若干弱い。もちろん、真菌がMRSAでマスクされている可能性はありますので、まったく無視出来るわけではないんですが……

休日をまたぐときに相談を受けることが多く、表現こそ違うものの、ほとんどの内容は「抗生剤をどうしたらいいんだろう」です。聞かれたときには出来るだけ考え、患者さんの様子から想定出来る感染症のうち、最大をカバーするように答えます。もちろん私の答えで抗生剤の投与が決まることはないのですが、たぶん背中を押してくれる答えが欲しいんでしょうね。納得してくれることもありますし、難色を示されることもあります。

この場合は、VCMでMRSAを治療、休日中FLCZを使ってみることを勧めてみました。ステロイドが背景にあると、いつも首をひねります。ひねってもほとんどわからないので帰ってから調べるわけですが、ステロイドってほんとやっかいですね。バックにあると、思わぬところで足をすくわれそうで、うかつなことが云えません(それでもおそるおそる云うわけですが)。主治医の心労、お察し申し上げます。

通常、カテーテルがなければ、顆粒球減少でもないかぎり、ほとんど真菌血症は問題にならないのではないかと思います。ただし、インフルエンザや敗血症をやった後はこの限りではなく、こういった疾患をやったあとには一時的な免疫不全状態が成立します。この期間は、何が起きても不思議ではなく、よって真菌血症のセンもいまいち否定しがたいように思えたので、(とりあえず)FLCZを勧めてみたわけでした。こういう患者は、事前に咽頭粘液や便培養などが出されていると、だいたいの常在菌層を把握出来てありがたいんですが、これは臨床的に意味のあるデータなのかな……この分野のスタンダードはよくわかりません。