PCG持続点滴

もうすでに書くのもめんどくさいお約束。私はここに書かれていることに一切責任持てませんので、これを見て起きたことに対して一切無関係です。これを見て何かするのはやめてください。とうぜん転載も厳禁。いかなる形の引用もやめてください。ようはちゃんとめんどくさがらずに成書を参考にしてね、ということです。


感染性心内膜炎は診断自体が難しい疾患ですが、抗菌薬の選択もまた難しい疾患です。臨床的には急性と亜急性の二通りに大別出来ますが、診断のガイドラインとして、Dukeの診断基準が有名です。出てくる菌としては、亜急性ではViridans Streptococciが多く、次いでその他のStreptococci、Staphylococci、Enterococciとなります。native valveでは、亜急性の方が多いのでしょうか。リウマチ熱で傷ついた弁や心室中隔欠損症など、凝血塊の出来やすい疾患がベースになって発生します。

この感染性心内膜炎の治療の特徴は、「抗菌薬の大量・頻回・長期投与」です。その理由は単純明快で、この疾患の感染巣が先述した凝血塊だからです。もっと正確に云えば、凝血塊をベースに発生したvegetationですね。このvegetationは血の塊をベースに、フィブリンや炎症細胞などが凝り固まって出来たもので、中に細菌を内包しています。そのため、抗菌薬が届かないのです。感染性心内膜炎がしばしば手術適応になるのはここらへんが理由です。血中濃度は高レベルに保つ必要があるので、治療薬は大量に、頻回投与してやることになります。

で、ここで問題のPCG持続点滴です。
PCGは数ある抗菌薬の中でもとくに半減期の短い薬で、0.5〜1.0時間、つまりたった30分かそこらで濃度が半分になってしまいます。推奨される投与法としては、Viridansが起因菌だった場合、そのMICが0.1(μg/ml)以下であれば、200万単位4時間毎、4weekです*1。MICが高い場合はGMをかますか、さらに倍量を用います。だもんで、1日に6回も投与するわけですね。それがなんと4週間。看護婦さんが怒ります。GMもIEの場合は3分割投与になりますので、さらに看護婦さんが怒ります。

それを解決するために持続点滴が試みられるわけですが、これが治療成績も悪くないようで、それなりに使える手段のようです。GMも一回投与にしたいところですが、これはあまり推奨されていないようで、感染性心内膜炎の場合は分割投与にした方がいいでしょう*2。で、ここでちょっとした落とし穴。

PCGの持続点滴ですが、これは長くても12時間にした方が良いようです。2400万単位くらいを24時間持続点滴がもっとも楽な方法ですが、PCGはなんともワガママな薬で、他の抗菌薬と比べても失活しやすい薬剤なのです。とくに暑さに弱いらしく、24時間もぬるいところに放っておくと、バッグの中で失活してしまう可能性があると聞いたことがあります。ちゃんと確認してはいないのですが、可能性が捨てきれない以上、12時間くらいで我慢した方がよいのではないかと思います。これなら常用量のセフェムと同じなので、看護婦さんの角も引っ込むことでしょう。

まあ、常用量のセフェムといったところで、日本の常用量は少なすぎるんですけど……

*1:WM感染症科コンサルト参照

*2:あと重症感染症時にも分割投与にした方がよいようです