中耳炎を叩く


そんなアホはいないと思いますが、ここに書かれていることを真に受けて発生したいかなる問題にも、私は関与しません。これは私個人の考えであり、自己責任でお願いします。


さて、中耳炎を叩くときのエンピリックセラピーはどうでしょう。
中耳炎の原因菌と云えば、M.catarrhalis、S.pneumoniae、H.influenzaeが三大起炎菌でしょう。これをすべてカバーしないといけないと思います。すべて小児の鼻腔に存在しうる菌です。M.catarrhalisはβラクタマーゼを高率で産生する菌で、逆に云えばβラクタマーゼを作る以外に耐性を持ちません。よって叩くのであれば、阻害剤入りのペニシリンか、セフェムになります。

S.pneumoniaeはペニシリンに耐性の菌が存在します。頻度は地域の疫学によります。ですが、S.pneumoniaeの耐性は段階的なものなので、中等度の耐性菌くらいまでなら高濃度のAMPCで(理論上は)対応が可能です。んじゃセフェムじゃダメなのかと云われれば、AMPCが使える以上、抗菌力の点でペニシリンが勝つと思います。

いちばん厄介なのはH.influenzaeで、これにはいくつかのパターンがあります。まず、βラクタマーゼ産生タイプの耐性菌。これには阻害剤入りの、AMPC/CVAあたりで対応出来ますが、日本で見ることはごく稀です。そしてもうひとつ、こっちの方がはるかに厄介なのですが、βラクタマーゼを産生しないタイプの耐性菌。日本の耐性H.influenzaeはほとんどこっちです。これはBLNARと呼ばれており、MICが2を超えるようなBLNARにはAMPC/CVAで対処することは出来ません。こんな菌が髄膜炎の起炎菌だったりすると目も当てられないのですが、あくまで飲み薬で対処するならCDTR-PIあたりが使えるのではないかと思います。in vitroでは活性があります。決定打とは云いがたいので、悩ましい問題です。中耳への移行性を考えると、倍量投与の方が無難かもしれませんが。

というわけで、以上からファーストチョイスにはAMPC/CVAかな、と思っています。治らなくて再度外来受診したときには細菌検査の結果が出ているでしょうから、それを参考に薬を変える、くらいでしょうか……あくまで論理的に考察したら、ですけど。

  1. ファーストチョイスはAMPC/CVA?
    1. AMPCにこだわる理由は、中耳への移行性がすこぶるいいから。
    2. LVFXも上記の菌をカバーするが、中耳炎を起こすのは小児が多い。だもんで、ハナからLVFXは除外。中耳への移行は調べてない。
    3. 日本では上気道感染にCFDNがよく処方されるが、BLNARには無効。まったくといっていいほど効かない。むしろ安易な処方が耐性菌の選択に一役買っていると想像される。
    4. 論理的に考えて、日本の投与量は少なすぎます。こう書くと必ず「アメリカ人とは体格が違うからいいんだ」という反論が来るんですが、アメリカと比べなくても投与量が少な過ぎます。通常量投与で効果があると判断出来るのは、耐性がまったくない菌だけです。現状では耐性菌を選択するだけでしょう。
    5. FRPMも上記の菌をカバーするが、外来治療のファーストチョイスにはまずなり得ない。あまりにもブロードすぎる。カバーしなくてもいいものまでカバーするのは明らかにやり過ぎだと思われる。