患者さんとラボデータ

闘い方を間違えると恐ろしいことになるぞ、といういい実例。

ラボデータと患者さんの様子が著しく食い違っているとき、どちらを信用したらいいのか?検査データはまともなのに、患者さんの具合がものすごく悪く見える、もしくは患者さんはわりかしまともなのに、検査データがものすごく悪い。そういうときに、どちらを信用したらいいのか、という話しです。

たしか大曲先生の本には、「ラボデータと患者さんの様子が食い違ったら、信じるのは患者さんの方」だと書いてあったように思います。検査はその特性上、ときどき嘘をつきます。嘘をつくというか、一見正常に見えるけれどもじつは異常、というデータを返すわけですね。患者さんの状態は刻一刻と変化しますが、検査はその流れの一点しか見ていません。だから、その一点で正常に見えるデータを返されると、ラボデータはまともに見える。だから食い違う。

CRPがバカみたいに高くて、白血球が正常、という症例がありました。こういうデータを見たら、何かこう、ぞくっとしませんか?背筋に何か悪寒みたいな戦慄が走りません?個人的には、「まともなデータ」というのは、「論理的に説明のつくデータ」のことだと思っています。肺炎の治療初期にCRPがポンと跳ね上がるのは「まとも」。適切な抗生剤が投与されているのに血培が陰性化しないのは「異常」。いつもの経過と違う部分にぞくっとしませんか?3日で解熱しない腎盂腎炎にぞくっとしません?とりあえず抗生剤を投与して様子見、なんて云っていると、次にラボデータを見たときに慌てることになります。

この症例では白血球が200まで落ち込み、重症敗血症でお亡くなりになりました(ちなみに、血培は陰性)。つまり、おそらくいったん上昇した白血球が重症敗血症で低下し、低下している最中の白血球数を拾ったので、「正常に見えた」のではないかと思うわけです。たぶん、入院したときにはもう何をやっても間に合わない状態だったのではないかと思います。ときどき、こういう症例に出くわします。この症例では、じつは患者さんはそこそこ元気でした。なぜ「元気なように見えた」のか?リウマチの患者さんで、ステロイドが入っていたんですねえ……これが。炎症反応をマスクするステロイド、恐るべし、です。

検査データと患者さんの状態、いったいどちらが正しいのか?たぶん、ぞくっとする自分の直感がいちばん正しいんだと思います。