教科書的

小ネタ続きですが。

細菌検査を専門にしている技師であれば、メジャな疾患の起炎菌はだいたい把握していると思います。あと、全身部分の常在菌や、検出菌の病原性ですね。ここらへんの知識を組み合わせて感受性試験をしたり、主治医に提案したりしていると思います。教科書的な知識ですが、とても重要なことだと思います。

ところが医師とコミュニケーションを取っていると、思考回路が違うなあと思わされることがよくあるのです。技師側では耐性菌はあまり気になりません(これは語弊のある云い方ですが、病原性の点であまり気にならないということですね)。モノホンの耐性菌感染症で患者が亡くなることはそう多いとは云えないと思います。たとえばESBL産生E.coliによる膀胱炎、ないし無症候性の定着はよく見るとしても、それによる敗血症、なんてのはとても珍しい*1。耐性菌が検出された場合、技師が見たことも聞いたこともないような菌が検出された場合、それは客観的に見て無症候性の定着であることがかなり多いんじゃないかなあと思います。いちばん多いのが喀痰ですね。

喀痰の微生物検査ってのは解釈が難しくって、必ずその検出された菌が定着なのか起炎菌なのか判断しないといけません。難しいのが、喀痰から出たK.pneumoniaeとか、P.aeruginosaとかでしょうか。むちゃくちゃな耐性菌が検出されてくることがありますが、白血球がほとんど見えなかったなどの理由から、定着かなあと思わされることもしばしば。Leclerciaなんて見たことあります?*2

単純性膀胱炎だったら9割がE.coli、ってのは有名な話しですが、疾患を惹起しうる菌ってじつはほとんど決まっているんですよね。その逆もまたしかり。たとえばCandidaは、免疫が正常なら積極的な下痢の起炎菌にはほとんどなりませんし、肺炎も起こしません。腸球菌は尿路感染症を起こしますが、肺炎は起こしません。そういうことですね。ほとんどの場合、まずはパターンに当てはまることがほとんどではないでしょうか。蜂窩織炎ならStaphylococci&Streptococci(まあ、ぶっちゃけS.aureus&S.pyogenesですが)。頬の部分なら+Haemophilus。深部に波及した壊死性筋膜炎なら+嫌気性菌(患者背景によっては、+V.vulnificusやAeromonas)。ガス壊疽なら+Clostrodium。だから経験的治療が成り立つわけで、これがようするに先人の積み重ねてきたもの、です。教科書的な知識は役に立たないというひとがいますが、教科書的な知識がいちばん大きな土台だと思います。

とくに免疫正常者に起こりえるコモンな疾患は、教科書的ですよね。患者年齢の高めなウチでは、あまり見ることがないんですけど……*3

*1:ひとたび耐性菌が無菌的材料から検出されると致命傷になり得るのは当然ですが

*2:誤同定だったらイヤだなあ

*3:たいてい土台に糖尿病の影が