血液培養2セットの理由

というわけで、血液培養を2セット採ることが推奨される理由を書いてみましょう。

まず、血液培養の検査目的は、感染症の診断です。これが大事。とうぜん疑わしいから血液培養が採取されるわけですが、何の微生物によって現在の状態が惹起されているのか、これを調べるための検査が血液培養です。その目的は、診断です。そのための2セットです。

なぜ2セットなのか?これは凄まじくシンプルな話で、心内膜炎のない群で1セットのみの採取だと、真の敗血症を拾う確率はたった65%だからです。2セットで80%、3セットで95%だと云われています。これはBACTEC9240を用いた検討結果ですが、基本的に自動機器を使うと検出率が落ちるのは否めないようです。20ml採血ですので、採血量が減ることで、さらに検出率が落ちることが予想されます。詳しいことを知りたい方は、血液培養検査のガイドラインCumitechをどうぞ。翻訳版が出ています。

この数字を知ってしまうと、もう1セットのみの採取なんて怖くて出来ないと思うのですが……

ある敗血症の患者さんがいるとします。考えやすいので、実は単純性尿路感染症からのuro sepsisだったとしましょうか。50歳くらいの女性。発熱あり、起炎菌はE.coliでした。こんな患者さんが居たとします。時間外救急でやたら発熱しており、敗血症が疑われたので、抗生剤で治療することにしました。

診察時点では培養結果もわからないので、エンピリックに治療することになります。ちょっとバイタルも不安定で、検査結果ではDICも起こしかけているようです。見た目の重症度はあまり高くなさそうなのですが、とりあえず広域にカルバペネムを使うことにしました。MEPMです。0.5g×2/dayでいきましょう。

さて、MEPMで症状は治まってきました。3日後くらいに解熱傾向が現れてきて、抗生剤の効果が出てきているようです。効いている、と判断出来そうでした。その頃には培養結果も返ってきていて、起炎菌はE.coliです。とうぜんMEPMは効いています。感受性のいい菌らしく、感受性結果を見てみると、CTMやCEZあたりにDe-escalation出来そうです。治療期間は2week実施しました。

これ、血液培養を実施していなければ(もしくは1セットのみで起炎菌が捕まえられなければ)、起炎菌不明のまま治療することになります。この場合はDe-escalation出来ないので、2weekずっとMEPMを使い続けることになるでしょう。

ここでおおざっぱに薬価を計算してみましょう。
3日間MEPMを使って、残りをCTMにDe-escalationした場合、MEPMを3日間で(1745×2×3)、CTMを(1000×2×11)で、合計32470円ですね(CTMが1g×2/dayなのは見逃してください(笑))。

一方、起炎菌不明の敗血症の場合、使う薬を変更するわけにはいかないので、MEPMを14日間使い続けます。(1745×2×14)=48860円です。コスト差ははっきりしていますね。MEPMは嫌気性菌作用もあるので、場合によっては偽膜性腸炎を起こしたりもするでしょう。緑膿菌を巻き込むので、耐性緑膿菌を作ってしまうかもしれません。血液培養を2セットちゃんと採って起炎菌をしっかり見つけてやると、いろいろといいことがあります。

これは実際にあった症例を、ちょっとだけ改変したものです。実際の症例では、MEPMを二週間、使い続けました。培養結果も出ていたし、De-escalationも出来たのですが、MEPMを使い続けてしまった症例です。これはちゃんとしないといけないなあと初めて思わされた症例でもあります。

ちなみに、血液培養ボトルの値段は(施設によってまちまちですが)、一本1000円しないと思います。1セットで2000円ですね。2セット採っても、経費が2000円増えるだけです。メリットの方が大きいと考えます。

あとはコンタミネーションがどうとかいう話がありますが、割愛します。こっちは有名な話ですしね。