coagulase agglutination test

ごく一般的な市中の病院であれば、おそらくS.aureusの同定はコアグラーゼの産生性に大きく依存しているであろうと思われる。生化学的性状よ りも簡便で、即日判定できるため、扱いやすいからだ。事実、グラム染色でブドウ球菌様である、カタラーゼ試験陽性、コアグラーゼ試験陽性であれば、ほとんどのケースでS.aureusと同定して問題がない。

一般的に、コアグラーゼには「遊離型コアグラーゼ」と「結合型コアグラーゼ」の二種類があり、市販のラテックス凝集試薬などで検出しているの は、じつは結合型コアグラーゼの方である。この結合型コアグラーゼは別名をクランピング因子(clumping factor)とも云い、結合型コアグラーゼの名前のとおり、菌体表面に発現している。遊離コアグラーゼを産生する菌のほとんどがこの結合型コアグラーゼも保有するため、結合型コアグラーゼ=遊離コアグラーゼ=コアグラーゼのように扱われている。従って、ラテックス凝集試薬で凝集を認めれば、コアグラーゼ(+)であると覚えているひとが多いのではないかと思われる。

遊離コアグラーゼを検出するためにはウサギ血清を用いた試験を実施する必要があるが、ルーチンでは、ほとんどのケースでそこまでの面倒をかけてやる必要がない。

・チューブテスト

  1. ウサギ血漿0.5mlに試験コロニーを混ぜ合わせる
  2. 35℃でインキュベート
  3. 4時間後、24時間後に血漿がクロットに変化するのを確認する

というわけで、非常に手続きがめんどくさい。ラテックス凝集試薬の方が簡便簡単、試薬の保存場所も取らず、管理もほぼフリー、便利なのである。

しかし、ラテックス凝集試薬で陽性反応を認めないS.aureusが存在すること、また稀ではあるがS.aureus以外にもcoagulase agglutination testに凝集を認める菌が存在することには要注意である。S.aureusが(もしくは、に)誤同定される可能性がある。病原性の点で似通っており、かつcoagulase agglutination test(+)になる可能性がある菌としては、S.lugdunensisが挙げられるだろう(もっとも、coagulase agglutination test(+)のCoNSなんて、S.lugdunensisを含めて、見たことないけど)。

S.aureusが疑われ、かつcoagulase agglutination test(-)の場合は数件経験した。およそ半分くらいは試験菌量を増やすことで凝集を認めているが、最終的に陰性と判断せざるを得ないケースも経験している。ほとんど勘で自動分析機にかけてしまうので、最終的にはその結果を当てにすることになるのだが、先のS.lugdunensisについて云えば、コロニーの発育がS.aureusよりも明らかに遅いこと、ODC(+)であること、PYRテスト(+)であることなどを理由に、S.aureusから鑑別が可能である。もっともこれらの追加試験も手間であり、そのような手間をかけるくらいなら自動分析機に叩き込んだ方が早い、というのが現実だったりもするのだが(それがよいとはもちろん云わない)。

ODCはたぶん市販のグラム陰性菌の同定キットのなかにあると思うし、PYRは(たぶん)専用の試薬を用いなければならない。P.mirabilisはODC(-)だがルーチンでわざわざこんな項目別個に調べたりはしないと思うし、PYRはA群溶連菌や腸球菌、サルモネラやシトロバクターを扱うときに出てくるくらいで、専用の試薬を確保しておく意義も低い。というわけで、ムダに試薬を増やして冷蔵庫を圧迫するより、自動分析機に叩き込んでしまえ、という結論になるわけだ。

生き物であるが故に、絶対的な試験方法などない。どこかに線引きを行わなければならないのだが、たぶんこのあたりはバランス感覚の問題なのだろうと思われる。