Enterococciの病原性

これは微妙なネタかなあと思いますが、ドクターから「腹水ドレナージから出てくるEnterococciには病原性があるのか?」という内容の質問がありました。答えは、「わかりません」(爆)。あはは……

Enterococciは病原性の低い菌で、たとえ全身感染症を起こしたとしても症状はマイルドなことが多いようです。かなりやっかいな菌で、ひとたび感染症を起こすときわめて叩きにくく、治療者は臨床症状とにらめっこしながら菌と格闘しなければなりません。E.faecalisはABPCが特効薬的によく効くのであまり考えずに済みますが、E.faeciumはペニシリンがほとんど無効なのでとても悩みます。本気で叩くなら、VCMしかないでしょう(LZDとかもありますが……)。

Enterococciがよく出てくるのは胆汁。これは腸管内の常在菌が迷入するからですね。胆石などがベースになって、感染症を引き起こします。閉鎖された胆嚢内で炎症を引き起こすのは、たいていの場合がグラム陰性の桿菌です。もちろんpolymicrobial paternになることが予想される感染症ですので他にもいろいろあり得るんですが、専門の先生方は、あえて腸球菌を治療対象にせずに薬剤を選ぶ先生もいらっしゃるようです。免疫がしっかりしていれば、あえて病原性の低いEnterococciを治療対象にせずともなんとかなるということですね。勢いのあるグラム陰性桿菌を薬で抑えて、あとは免疫でなんとかする、がベースの考え方のようです。Enterococciが検出されていたけど、CPZ/SBTで何とかなったよ、というパターンですね。EnterococciにCPZ/SBTが効いたのではなく、自然治癒しただけだと推測されます。

腹水ドレナージから出てくるEnterococciに臨床的意義があるかどうかについては、不明です、としかいいようがないです。多くの場合、Enterococciを治療対象から外して治療しても、他の菌の消失とともにEnterococciも消えていくことが多いように思います。Enterococci単独で炎症が成立していると判断出来る場合は病原性がはっきりとしていますが、混合感染の一角だった場合、その病原性に関してはよくわかりません。症例によって変わるんじゃないかと思います。

その症例はPD術後で、FMOX投与で経過順調、Enterococciを対象に入れていないが、大丈夫か?という内容でした。膵臓は嫌な臓器で、出来ればかかわり合いになりたくない臓器No1です。断定は出来ないが、経過観察で順調ならそのまま、悪化するようならABPCを重ねるか、IPM/CSでどうでしょう、みたいな話を5分ほどしました。CRPが下げ止まったので、不安になったようです。

ちなみに、喀痰から出てくるEnterococciには病原性が認められません。Enterococciは肺炎を起こさない(もしくは、起こしにくい)からです。通常、口腔内の定着菌を拾っているだけにすぎず、同定、感受性試験をする意義もないと考えられます。基本的にムシ、ですね。