夏と花火と私の死体

解説で小野不由美が大絶賛しているのだが、それもむべなるかな。あまりに面白くって一気に読んでしまった。

これを16歳が書いたわけだから、ほとんど驚異と云ってもいいと思う。小野不由美が書いていたとおり、私も作者の年齢は作品の評価に直接影響はしないと思っている。しかし、それでも作品の幅は年齢とともに広がっていくものだ。16歳に30歳の心理は描写出来ないが、30歳には16歳の心理が描写可能なのである。あとは精度の問題であって、けっこうこれは重要な問題であったりするのだ。

全体の構成力、描写力(あるいは観察力)、緊張の作り方、あえて云うなら漢字のセンス、どれをとっても申し分がない。恐ろしく無駄がないのだ。遊びがないわけではないと思う。その遊びの部分を呑み込んで、ほとんど無駄がない。本を読んでいると、本来あるべき理想をなぞって、物語が滑り出てきたような印象を受ける。すばらしい。

乙一の描く世界には孤独がある、と私は思う。数冊を読んでみて何となくそう感じたのだが、その孤独はたぶん、友達がいないとか、恋人がいないとか、そういう類いのものではない。例えて云うなら、自分と似たような誰かを見たことがないものの、絶対的な孤独だ。同じ人間という種族でありながら、自分とほんのわずかでも似ているものを見たことがないものの持つ孤独が溢れている。そう思う。

まあ、作者がどんな人であれ、私は読むものが面白ければそれでいいのである。もっと云うなら、私が読むのと同じスピードで本を出してくれれば、それがベストだ。それと失踪HOLIDAYくらいの長さの本が読みたい。短編の切れ味は最高なのだが、やはり長いものも読んでみたいのである。

いまで乙一本7冊目。あと何冊残っているかなあ……