尿路感染症を叩く

これを見て実践するアホはいないと思いますが、念のため。この記事に関して起こりうるいっさいのことに私は関与しません。この記事はすべて架空のケースをもとに書かれており、現実はこんなに単純ではありません。こんな記事を真に受けてはいけません。以上!


というわけで。

外来で尿路感染症を叩くときの抗生剤を考えてみましょう。
外来で見られる単純性膀胱炎の原因菌は、9割近くがただの大腸菌です。この単純性膀胱炎は、基本的に女性が罹患する疾患です。原因菌は、E.coli、S.saprophyticusが多いとされます。とりあえず、この辺りを押さえていればいいのではないかと想像します。

まずE.coli。ただの大腸菌です。ほとんどの大腸菌には薬剤耐性など見られず、大半の抗生剤がよく効きます。外来での治療ですから、ST合剤などどうでしょう。尿路で濃縮されるため、尿路感染症にはよい適応になると思います。サンフォードにも大腸菌のST耐性率が20%以下の場合、ファーストにST合剤を推していますね。副作用としてワーファリンなんかの作用を強めたりするようなので、そこらへんに注意が必要です。このSTは、S.saprophyticusもいっしょにカバーします(もちろん耐性がなければ、ですが)。もしもろもろの理由でSTが使えない場合は、LVFXなどのフルオロキノロンでしょう。これもサンフォードの通りですが、LVFXは肺炎球菌に効果が高いので、そっちに温存しておくのがよいかと思います。モキシフロキサシン(MFLX)は尿路では使えません。GFLXは副作用で血糖コントロールをミスる可能性があり、糖尿病持ちに使うにはつらい薬です。シプロキサン(CPFX)が妥当ではないかと考えます。

排尿障害やデバイスなどが加わる複雑性膀胱炎の場合、原因菌には腸内細菌全般、加えてP.aeruginosaを考えなければなりません。何が出てきてもおかしくない、と云えます。この場合は、外来で治療するなら、フルオロキノロンでしょうか。腸内細菌系はおおむねSTでいけますが、ブドウ糖非発酵菌に関してはSTではなんともなりません。カバーするなら、キノロンになってしまいます。

もうひとつおまけで、入院している場合はどうでしょうか。
この場合は注射薬がおおっぴらに使えるので、単純性の膀胱炎にはCEZで十分なのではないかと想像します。すっきりしないようであれば、GMあたりを噛ませることも出来るかもしれません。グラム染色像でレンサ球菌が見えるようであれば、ABPCが対象になるでしょう。加療歴が長ければ、E.faeciumが出てくるかもしれませんが……出てこられるとつらいので、この場では置いておきます。

複雑性の膀胱炎は、入院患者であればもうなんでもありです。ここで注意しなければならないのは、外来よりもはるかに多く、ブドウ糖非発酵細菌が検出されるということ。よって重症度にもよりますが、非発酵細菌を漏らさずに叩かないといけないでしょう。よって抗緑膿菌薬を選択します。施設で感受性率を点検し、信頼出来るものを使うのでいいのではないでしょうか。CFPMあたりと、重症度によってはアミノグリコシドを噛ますのも必要かも。

というわけで、中耳炎のときに比べて、いくぶんややこしくなっています。
乱暴にまとめておきます。

  • 外来患者の単純性膀胱炎
    1. ST合剤が第一選択薬。何らかの要因で使えない場合は、もうLVFXいっとけ
      • キノロンは、1日1回投与の方が薬効は高い。日本では認められない投与法ではあるが……
      • LVFXとCPFX、どちらがよいかと云われると悩ましい。LVFXはS.pneumoniaeのためにとっておくべきだと思うのだが、CPFXはMICとMPCの差が大きく、中途半端に投与すると菌を選択する可能性が増す。キノロンはしっかり十分量を一回投与が理想。
      • 最近、外来でもかなりLVFX耐性菌を見る。日本の投与方法が一役買っているのではないかと勝手に思ってる。
    2. 仮にST耐性でも治療出来たりする。理由はもちろん、STが尿路系で濃縮されるから
    3. ざっくり云えば、膀胱炎は女性の疾患。男性が膀胱炎にかかった場合は、尿路障害を疑う方が重要かも
    4. STはS.saprophyticusをカバーするが、もしかしたらグラム陽性菌を殺し切ることは出来ないかもしれない。(STはMRSAにも効果があるが、STで治療しても残ってしまう)
    5. 単純性膀胱炎では熱が出ない。
    6. 熱が出ている場合は、腎盂腎炎が疑わしい。云うまでもなく、尿培養と血液培養が必要。
      • 血液培養は2セット採ってくだちい
    7. 無症候性の細菌尿は治療不要とされる。じつは尿培養も不要らしい。
      • どうやら糖尿病持ちの場合でも、無症状なら治療は必要ないようだ。
    8. もちろん、おもむろにビクシリンを使って治療しても、成功すればどこからも文句は出ない(ハズ)。
    9. 外来での感染治療って、アーティスティックだよね
  • 入院患者での膀胱炎
    1. 薬の選択は、患者の基礎疾患によるところが大きいと思う。
    2. デバイスや尿路障害がない場合(すなわち単純性)は、CEZで十分では?
      • と思っていたのだが、抗菌力の点でいまはCTMかなあと思う。
    3. 入院患者の場合は、おむつがハイリスクグループかなぁ。
      • おむつのグループでも大腸菌が優位に検出されるかどうかはわからない。誰か文献があれば教えてください。
  • 外来患者の複雑性膀胱炎
    1. もういろいろ出てくる。複数菌感染とか十分にあり得る。
    2. 腸内細菌全般、加えてお水回りに生息するP.aeruginosaあたりが検出される。
    3. ここらへんをカバーしようと思えば、キノロンを使わざるを得ない?
    4. セフェムの飲み薬はー?という向きもおありだろうが、セフェムの飲み薬は意外に効かないので没。
      • 腸内細菌に関しては、まだSTの方がよくカバー出来る。
    5. ファロペネムはー?という恐ろしい意見もあるが、緑膿菌に効かないので没。
      • というか、交差耐性を誘発する可能性があるので使わないで。
  • 入院患者での複雑性膀胱炎
    1. もはや何でもありの世界。
    2. こわいのは、いわゆるurosepsis。熱があるかどうかは、かなり重要。熱源が特定出来ない可能性もあるけど。
    3. グラム染色のありがたみがいちばん発揮されそう。
      1. グラム陰性桿菌のみが見えたら、CFPM+GMでどーだ?
      2. グラム陽性球菌(chain)が見えたら、ABPCを考慮
      3. 不幸にもグラム陽性球菌(cluster)が見えたら、神に祈ってください。
        1. でも神様っていじわるだよね。
        2. MRSAだったらやっぱりVCMかなあ。
      4. 陽性と陰性と、両方見えたら、PIPC+GMとかにならざるを得ない。
        • セフェムはEnterococciには完全無効。MRSAにも無効。
        • PIPCではMSSAをカバーしきれない気もするが、どないせいっちゅうねん。
        • あとになって気がついたけど、TAZ/PIPC+GMという手があるね。
    4. 嫌気性菌が検出されたら、尿路と腸のどこかがくっついていないか、検索する必要があるかもしれない。
  • 病歴によっては、もっと違う視野からのアプローチが必要かも