ビジネス書の罠

「ビジネス上の成功」を収めた個人が、「なぜ」成功したのかをひもとこうとする書物は多い。結論から云って、すべて役に立たないと思われる。無駄だとは云わないが、おそらく読者が抱かされているイメージほど、役には立たない。

そもそもビジネスに「必ず成功する法則」は存在するのだろうか?多くのビジネスマンに聞けば、そんなものは存在しない、と云って、鼻で笑われるだろう。つまり、ある個人が成功したからといって、その成功を再現する手段は存在しない。そもそもシチュエーションが一定ではないのだから当然なのだが、ここで重要なのは、ビジネスシーンにおいては再現性が皆無である、という点である。

従って、科学的な法則は存在しない。

きわめて簡単な結論なのだが、多くの人がこれを信じていない。そもそも成功したある個人の人生をひもとけば、じつは最初から成功していたわけではなかった……という逸話が出てくることがほとんどである。これは、単純に、そのひとの業績が平均回帰しているだけのことであろう。昔はいろいろ失敗したけど、いまはこんなに成功しています!と主張しているビジネス書があったら、著者の数年後の業績を調べてみよう。きっと落ち込んでいるはずだ(そんな嫌味な調査は見たことがないけど……)。

おそらく失敗の可能性を少し下げたり、成功の可能性を少し上げたり、いまより楽に仕事ができるようになったり、生きているのが少しだけ苦痛ではなくなったり、その程度の効果は大いに期待できるだろう。だが、必ず成功する法則など、存在しない。それはみんなが直感的に理解している通り、ビジネスシーンに再現性がないためであり、平均回帰の法則を考慮すれば、おそらく試行し続けることが成功するための唯一の方法であることは、自明のことであると云える。(その後におそらく失敗する)

つまり、ビジネス書はある種のファンタジーを売っているに過ぎない。もちろんビジネス書を読んで成功しましたというひとも存在するはずだ。因果関係があるかどうかはさておき、それもまた、自明である。