新型インフルの雑記的まとめ

新型インフルネタも落ち着いてきました。

相も変わらず、「疑い例」の報道は続いていますが、そろそろみんな感覚が麻痺してきたんじゃないでしょうか。人口1億を超える日本で、熱、急性呼吸器症状を主訴に持つ感染症の「疑い」症例を逐一漏らさず把握しようとするとこうなるよ、という、壮大な社会実験という気もしてきました。それについては水際阻止の「検疫」も同様で、ここまで厳しい水際措置を取っているのは日本だけです。水も漏らさず系の反応をするのが日本人の特徴ですが(少なくとも、どうやら海外からはそう思われているらしい)、水際対策がどのていど感染症に対して有効なのか、これも壮大な社会実験のひとつだと云えないこともないかもしれません。

新型インフルエンザについて

  1. 症状について
    • 発熱、咳・痰などの呼吸器症状、咽頭痛、頭痛、関節痛、筋肉痛などの一般的なインフルエンザ症状
    • 加えて、下痢・嘔吐などもある(季節性インフルよりも比較的頻度は高いらしい)。発熱はあまりアテにならない可能性があるため、より正確な情報がそろうまでは考慮されるべき。
  2. 感染様式について
    • 飛沫感染。くしゃみや咳のしぶきによって伝播する。しぶきは一度に2メートル以上飛ばないとされているため、患者の2メートル以内が感染圏だと考えられる。
  3. 感染防御について
    • 飛沫感染に対する対策を講じることになるだろう。
    • 医療従事者は、急性呼吸器症状を訴える症例を診察するときには、サージカルマスクを着用する必要があると考えられる。サージカルマスクはしぶきをトラップするので、患者が間近にいる場合、ある程度感染防御の役に立つだろう。
    • 季節性インフルでは、空気感染と思われる伝播様式も報告される。流行期に入って外来に患者が溢れ出したら、N95を着用すべきかもしれない。
    • 一般的に、サージカルマスクが一般的な感染防御に役立つ(つまり、これをつけていたら感染しない)という論拠は乏しい。理論上はしぶきをトラップするために有効だと考えられるが、マスクを素手で触るなど、トラップしたしぶきが手に移り、そこから感染が生じているなど、別の経路が関連している可能性もあるのではないかと思われる。
  4. 確定診断はRT-PCRで行われる(ことになるだろう)
    • 検体提出の仕方については、医療機関から地方衛生研究所への検体の流れ(5月1日現在)を参照。PDF注意。
    • いまのところ、迅速キットでは季節性インフルエンザとの区別はつかない
    • いまはいいが、これが秋になって季節性インフルと混じった場合、外来でどうやってトリアージし、どうやって入院させなければ危険な症例を扱うのか、マニュアルを定めておいたほうがいいのではないかと思われる。院長命令ということにしておいたほうが現場はラクチン。
  5. 疫学的な感染力について
    • 季節性インフルエンザよりは強いらしい。これはおそらく、誰も免疫を持っていないことに起因する。
    • 基礎疾患を持っているひと、妊婦さんなどで重症例が多く報告される。若いひとに重症例が多いというのもひとつの特徴だとされる。
    • 季節性インフルエンザのワクチンは効果がないとされる。
    • アメリカでは「いまのウチに免疫を付けようぜ」という発想で、「感染パーティー」なるものがあったりするが、いまのトンフルに対する免疫が、後の感染症に対して有効だという論拠は何ひとつない。危険なだけで、社会的にものすごく迷惑な行為。どうしてもやりたければ、山奥でやってください。
    • もう少し慎重になってみないと、もしかしたら統計的なバイアスの可能性もある。情報待ち。
  6. 薬剤について
    • タミフル、リレンザは有効だと報告されている。
    • ただし、タミフル耐性遺伝子の出現でも分かるとおり、もはやインフルエンザを診たらすべてタミフルという図式は崩れていると考えたほうがいい。つまり、投与するべき症例と経過観察すべき症例とを見分ける必要がある。
    • 流行期に投与しない症例をどうやって見分けるのか、これにも明確な指針が必要だろう。政府がタミフル・リレンザ投与の方針として打ち出しておくべき。「新型インフル疑いです」「でもあなたは軽症なのでタミフルはありません」では、パニック(ヒステリー?)になるひとが絶対に出てくる。


ぐらいかな……気がついたら修正しますが、あまり当てにはなりません。

徳島の県教育委員会が修学旅行を延期したと聞いて、さいきんの学生は海外に修学旅行にいくのかと感心していたのですが、じつは国内だったんですね。明らかに過剰反応……というか、ここまで来るともうヒステリックとしかいいようがありません。でも、そのヒステリックな反応の土台を作ったのは、疑い例を過剰に報道してしまった厚生労働省と、「感染者のいる国に行ったほうが悪い」「マスクをしなかったほうが悪い」という、日本人の反応の仕方でしょう。日本のどこで次の感染疑い例が出るかわからないこの状況で、修学旅行を取りやめる理由なんてありません。どこにいっても、どこにも行かなくても、感染者が出る可能性があるのですから。つまり、「どこそこへ旅行に行ったから」→「感染した」→「誰の責任だ?」→「新型インフルが国内で出たのに(水際だけど)、修学旅行なんていくからだ」→「許可を出したの誰だ?」→「教育委員会か!」→「責任者出てこい!」という流れを恐れてのことでしょう?つまらん話だと思います。

疑い例を過剰に報道したあの厚生労働省の態度そのものが、実に明快なメッセージだったんだなと思います。そしてそれを要求したのは、たぶん日本独特の雰囲気と云うか、空気なんでしょう(それこそ空気読めってこと?)。つまり、いまこの状態が、日本という国そのものだったということです。カナダに行かせた高校の対応を批判する電話が相次いで、塩谷文化相が「情けない」とコメントしたそうですが、まあつまるところ、その「情けない」のが日本という国の実情なのですね。そのうち、日本独特ですでに崩壊一歩手前まで行っている検疫体制を批判する声が出てくるんじゃないかと思いますね……世界標準じゃない、(結果的に)意味がなかった、とか云って。

しかし、こんな事態になることは容易に想像がついたわけで、「感染した人を余計に傷つけるのではなく、温かく迎える気持ちを持ってほしい」などとコメントしたところで、どの口がのたまうか、ってなもんですがね。患者をバイオテロリスト扱いして個人情報に限りなく近い情報を晒しまくったのはどこの誰ですか?シート情報なんか晒して誰が得をしたの?

あとブラックジョーク。

  1. 豚インフル、治療せずに放っておいたらどうなる?
    • 現在の統計情報では、高い確率で治ります。
  2. 国内旅行を自粛する必要性は?
    • 田舎にいくのであれば、都会にいるより安全だと思います。