やっぱり怖い髄膜炎

0歳児の髄膜炎です。起炎菌はH.influenzae。典型的なパターンですね。

こんかいのH.influenzaeは非常に菌量が少なく、塗抹でもラテックス凝集反応でも菌体を捕まえることが出来ませんでした。正確には塗抹では全視野で5個ほど菌体を見つけられたのですが、これだけでは少なすぎて菌名を確信するには至らず、考えられる可能性をカバーしつつ培養の結果待ち。所見は明らかに髄膜炎なのに菌が見えないというパターンだと、考えられるのは……

  1. ウィルス性髄膜炎?
  2. リステリア髄膜炎?
    • グラム染色の感度が悪く、見つからないことが多い。
    • 0歳児の髄膜炎で外してはいけない菌のひとつ。セフェムが無効なこの菌を鑑別に入れていないと、どツボを踏む可能性あり。もちろん致命的。
    • お母さんがチーズ好きだったり?食歴はまったく当てにならないけど……
  3. 前医で中途半端治療された髄膜炎?
    • 経口セフェムなんかを飲んでいると、髄膜炎として症状はあるのに見た目が「無菌」になることがある。
    • 髄膜炎疑いで経口セフェムを飲ませるのは罪かもしれない。どちらにせよ即刻搬送して精査するべき。
  4. 結核性髄膜炎?
    • 小児の結核は急速に悪化する。
    • この場合は、家族歴がなければそれほど強く疑う必要はない?先進国では小児性の結核性髄膜炎はマレ。

このあたり……かなあ?
大人の場合だと、またちょっと考え方が変わりますが……今回は髄液が白く濁っているにもかかわらず呼び出しもなく、しかも血液培養も採ってないという、すごく危険なパターンでした。あやうく菌を捕まえ損ねるところでした。出てきた検体は抗生剤がたっぷりぶち込まれた後……髄膜炎を疑ったら抗生剤を落とす前に検体を採取し、もう何も考えずに血培を二セット採るべきです。こんかいのパターンは、どうやら抗生剤で半端に治療されたから、というのが理由のようでした。

あと怖いなと思ったのが、グラム染色を見ずにブラインドで使用した抗生剤が「CTX+PAPM/BP」だったということ。あれ、リステリアは?そりゃ、カルバペネムがリステリアをカバーするけど、小児の髄膜炎にはABPCを噛ませるのがスタンダードだと思っていました。うーん……個人的には、CTRX+ABPCでもいけたのでは?と思いますが……

新生児B群髄膜炎をカバー、E.coliをカバー、H.influenzaeをカバー(たとえBLNARであっても大丈夫…と思う)、S.pneumoniaeをカバー(たとえPRSPであっても大丈夫…だろう)、リステリアをカバー(CTRXはダメだけど、ABPCがカバー)。理論的には大丈夫なはずです。ま、聞かれないかぎりはこちらから提案することはありませんが……


ところで、もはやいわずもがなですが、日本はさっさととH.influenzaeワクチンを公費負担にするべきです。小児性髄膜炎でもっとも多く検出されるH.influenzae、ワクチンを導入した国ではほとんど見られないそうですよ。うらやましい話ですね。日本でも希望すれば接種出来ますが、ものすごく高くつきます。これを公費負担にしてしまえば、こうやって余計な疾患で苦しむ子も少なくなるでしょう。H.in髄膜炎を見るたびにそう思います。後遺症とか残らなかったらいいけど……