最強の抗生物質?

これは雑記ネタかなあ、とちょっと悩むわけですが。

まず最初に、よく誤解されるのですが、「最強の抗生物質」という存在はありえません。これひとつで何にでも聞く飲み薬、というのが抗生物質の理想だと思いますが、そんなものは存在していません。いまそれに近い抗生物質はカルバペネム系と呼ばれるチエナム、メロペン、カルベニン、フィニバックス、ビアペネムの五種類でしょう(米国では、これにErtapenemが加わるようですが)。このカルバペネムはいろいろな菌に効くので医療機関で乱用され気味な薬剤ですが、このカルバペネムにしたって効かない菌はたくさんいます。もともと効いていたのに耐性化してしまった例もたくさんあります。逆に、そんな耐性菌に対して、昔の薬が効いたりもします。さまざまなのです。

よく「最強」と形容されるバンコマイシンですが、これもよく誤解されています。純粋な抗菌力を比較すれば、バンコマイシンは決して「強い」抗生物質ではありません。耐性さえなければ、じつは古典的なペニシリンがもっとも強い抗菌力を持っています。バンコマイシンペニシリン、いわゆる「キレ」を比較すれば、圧倒的にペニシリンの方が「キレ」がいい。これは事実です。ただバンコマイシンの方がスペクトルが広く、多くの菌に効くというだけの話しです。典型的な多剤耐性菌であるMRSAにも効く、という事実が、バンコマイシン=最強というとんでもない誤解を生み出しているようですが、まったくの間違いだと云えます。危険思想でもあります。

まあだから、検査技師の立場から云えば、バンコマイシンとカルバペネムは滅多なことでは使ってほしくないのです。耐性菌が増えるから。他の薬で対応出来るときは、そちらを使う。起炎菌の感受性結果が出れば、積極的に狭域スペクトルの薬にDe-escalationする。蚊を殺すのにナパーム弾は必要ありません。これは誰の言葉だったっけ……青木眞先生だったかな。云い得て妙だと思います。

いちばん困るのは、外来で医師に抗菌薬をせがむひと。何でも病気を治す薬なんてありません。抗菌薬に頼るのはやめましょう。