化膿性関節炎を叩く

化膿性関節炎は、整形外科的なエマージェンシーです。文字通り、「化膿性」「関節炎」ですので、関節には膿みがたまっています。例によって例の如く、治療はこの膿みを外に出してやることから始まります。積極的に膿みを出しグラム染色することで、おおよその起炎菌を絞ることが出来ます。この作業が大事です。多くの場合、外来治療には馴染みません。これを疑えば、とりあえずは入院対象になります。

というわけで、使うのは注射薬です。起炎菌の多くは、成人以上であればS.aureusやStreptococciです。で、忘れてはいけないのが淋菌ですね。これは血行性に転移して、関節炎を起こし得ます。あとマレですが忘れてはいけないのが、結核性の関節炎です。鑑別に上がると思います。淋菌とTBについては、細菌性であるにもかかわらず、同時に複数の関節を障害するとされています。私は症例として経験したことはありません。乳幼児の関節炎として、上記起炎菌に加えて、Haemophilusが容疑者として加わります。頬部の蜂窩織炎もそうですね。乳幼児に限らず、小児ならすべてHaemophilusを頭の隅に置いておくべきかもしれません。

というわけで、恒例のツリーを。

  1. 化膿性関節炎を叩く
    1. まずは排膿。そしてグラム染色
      • 好中球がもっさり見えたら、細菌性の関節炎である可能性が高くなる。
      • 多くの場合は、グラム陽性の球菌、つまりS.aureusが見える。人工物が入っている場合はS.aureusの可能性が高くなる。
      • ところが好中球がそこそこ見えて、結晶を貪食していたりすることもある。COPD結晶なんかを貪食していたりすると、偽痛風ということになる。
      • グラム染色で結晶まで分類出来るヒトはすごいと思う。ぜひ、出来るようになりたい。
      • グラム陰性桿菌が見えることもある。高齢者では、そこそこグラム陰性桿菌を見ることが多い気がする(根拠はない。糖尿病との関連が?)。
      • Haemophilusを関節液で見たことはないが、培養するときは常に頭に置いておくべきだと思う。塗抹で見えない=菌が存在しない、とは云い切れない。
    2. グラム染色の結果で持って、抗菌薬を決定する。
      • グラム陽性の球菌であれば、CEZで十分なのでは?
        • 人工異物が絡む場合、MRSAの可能性が高いと判断される場合は、最初からVCMをかませておいた方が無難だと思う。否定されれば即座に中止する。
      • 淋菌であれば、PCGで十分だと思う。塗抹で見えることもあるというが、見えないことも多いはずで、難しいところ。培養で出れば確定的。臨床症状としても、普通の細菌性とはちょっと違った感じ。
        • 淋菌疑いの場合は、関連する臓器すべての培養を行う必要あり。パートナーを含めて、そっち系のフォローも必要。
      • グラム陰性桿菌であれば、アミノグリコシドなどいかが?化膿性関節炎自体、あまり経験はないが、どちらかというと耐性気味のお水系細菌が多いように思う。飲み薬セフェムや第1世代、第2世代のセフェムは効かないかも。根拠はない。
      • 菌が見えない場合は難しい。菌がいるのに菌量が少な過ぎて見えていない、もしくはすでに投与されていた薬剤のせいで見えていない、ほんとに菌がいない(無菌性)、などなど、いろんな場合がありえると思う。専門家のフィールド。
        • ここらへんを含めて、化膿性関節炎がとても疑わしいが菌が証明出来ない、なんていう悩ましい状況下で、どうしても抗菌薬投与を行いたいあなたに、CTRXなんかどうでしょう?上記の菌をほぼきれいにカバー。最終兵器?
    3. 反応性関節炎の可能性まで考えると、頭がこんがらがってくる。
      • 食中毒を起こす菌に罹患した後、反応性に関節炎を起こすことがあることが知られている。
      • ShigellaやSalmonella、Campylobacter、Yersiniaなどは反応性関節炎を起こすらしい。
    4. リウマチなどの基礎疾患のせいで痛むのか、それともほんとに感染しているのか……
      • 整形外科に振ってしまう方が早いかも。というか、そうするべき疾患なのか……


じつはいまグラム染色で菌が証明出来ない小児の関節炎に遭遇しています。前医でCFPNを処方されていたようです。そのせいで見えないだけか、それともまったく違う原因によるものか……さて、どうしたものか……