ブルベとデトックス

ペダルを漕がないかぎり、自転車は前に進まない。

こんな当たり前のことを、心底実感できたのは、ブルベで走っている最中だった。極限状態にあって、すべてを投げ出したくなったとしても、そして実際にすべてを投げ出して「やーめた」と宣言したとしても、誰も救ってはくれないのだということを実感したのも、ブルベの最中だった。自分を壊さずに目的を達成するためには、自分の力を見極めながら「コントロールする」ことが何よりも大事だということを学んだ。意外にコントロールできないものだということを実感し、コントロールに失敗したときは、たいていろくでもない結果になった。状況と状態を把握し、不測の事態が起きるリスクをヘッジしながら、限られたリソースを駆使して戦うことの重要性を実感した。概念として「知っていた」ことを「実感した」のは、とても得難い経験だったと思う。

ブルベを走っている間は、意外に何も考えていない。少なくとも、仕事のことは考えていない。残りの距離と、自分の状態と、走ってきた距離とが頭の中をぐるぐると周り、路面を見つめながら、意外に他のことは何も考えていないのだ。そんな時間は、学生の時以来、本当に得難いものになっていた。自分の好きなひとつの問題について延々と考え、模索し、作り上げる時間は、本当に貴重なものになっていた。貴重なものになっていたことに気がつけないくらいには、いろんなものを見失っていたとも云えるだろう。

ブルベを走っている間は、瞑想状態に近い。それはたぶん、ときどきは強制的に必要なことなのだと、最近は思うようになっている。