インシテミル(映画)を見たよ

原作が面白かったので楽しみにしていたのですが、それだけに評価はサイアクです。皮が余って肉が百倍……じゃないや、かわいさ余って憎さ百倍、といったところでしょうか。眠いの我慢してわくわくしながら夜勤明けに見に行ったのに……がっくり。

感想を書きますが、ネタバレとネガティブな感想を見たくない人は、これ以上読まないように。ちなみに、満足度は1点(/10点)です。

まず最初に、この映画の脚本を書いた人は、原作をちゃんと読んで、理解したのかな、というのが疑問です。よく原作の雰囲気をぶちこわしにしたものを原作キラーなどと云ったりしますが、このインシテミル(映画)は、真の意味で原作キラーです。映画にしたことで、かんっぺきに原作を殺しています。原作ものとして、これ以上の酷い出来はありえない、というレベルです。原作はミステリでしたが、この映画をミステリとして認めることはぜったいに出来ません。なぜなら、ミステリの定義にもよるかとは思いますが、ただのワンシーンも推理するシーンがなく、ほとんどが「信じるものは救われる」的な気持ちの悪いスリ込みとバトルロワイヤルで出来ているからです。

時給11万2千円というお金に釣られてやってきた訳アリ10人によるバトルロワイヤル in 暗鬼館、という触れ込みなら納得できますし、ここまで頭に来ることもなかったでしょう。そしてその触れ込みなら、私はぜったい見に行かなかったのですが。

そもそも原作はミステリを愛する作者による「過去の名作ミステリたちに対するオマージュ」であふれていたと思うのですが、この映画にはそのオマージュがただのひとっ欠片も存在しません。脚本書いた人は、ちゃんと原作を読んでいなかったか、それとも参考文献(過去のミステリ)をまったく読まなかったのかのどちらかです。そもそも、劇中の凶器、あれなんですか。オートマチックの拳銃が暗鬼館の凶器としてダメな理由はちゃんと原作で提示されていたのに映画ではまったく触れず(ここはまだいい)、話が進んでネイルガン(釘打ち機)が出てきたときには本当に絶望的な気分になりました。アホですか。いや、先にも云ったとおり、ただのバトルロワイヤル in 疑心暗鬼館なら別に何が出てこようとかまわないのですが、仮にも原作もの、しかも過去の名作ミステリに対するオマージュで溢れた米澤穂信インシテミルを原作としておいてネイルガンって、バカ呼ばわりされても仕方がないんじゃないでしょうか。この一点で、私はこの映画が許せません。(何点でも許せない点はありますが)

暗鬼館の夜の怖さもまったく無視。鍵のかからない部屋、防音設定、したたるような暗鬼館の悪意も怖さもまったく無視。いったい米澤穂信の原作で何がやりたかったのか、まったくわからない。これほど酷い映画を見たのも久しぶりです。書くことがなかった映画はいつも感想書かないんですが、怒りの衝動に突き動かされて、書かずにはおれなかったです。そのくらい酷かった。

ちなみにそれほど酷いと感じた映画だったのに0点ではなかったのは、藤原竜也の演技がけっこう面白かったからです(大げさですが)。しかしこれもこの演技の良さ……というか、よくも悪くも目立つ演技のおかげで、藤原竜也だけ画面から浮いています。いちばん画面として見ていて安心できたのは、同じく動的な演技で場を支配していた武田真治との絡みのラストシーンだけです。北大路欣也も演技はもちろんいいんですが、どちらかというと静的に感じられる演技で、やはり藤原竜也だけが映画の中で浮いている感はぬぐえませんでした。これは監督の力量になるんでしょうか。

というわけで、ひとことで云って、いろんな意味で「酷い」映画です。原作を読んだことがなく、ミステリに興味がなく、藤原竜也綾瀬はるかの顔を銀幕で見てみたいひとだけ、映画館に足を運ぶ価値があるでしょう。

ここまで書いてもまだ怒りが収まらん。

ちなみに、どう考えても最初に「射殺」されたひとは、壁についた血糊の位置からして「天井」から打たれたものじゃないですね。あれだと、超長距離狙撃じゃねーか。筋弛緩剤については、もうどーでもいい。