医療情報学会に参加してみて

学会に参加してみていくつか自分なりに得られた結論。まずいちばん大きなことは、

紙ベースで実現できないことは電子化しても出来ない。

身もふたもないことながら、これが現実だと思います。病院でも中堅以上の方に非常に多いのですが、電子カルテやコンピュータに対して幻想を持ち過ぎです。電子的な手段は魔法ではありませんので、何もないところから成果をひねり出すことは出来ません。異論はあるかもしれませんが、これが今回の学会に参加してみて、個人的に思った結論でした。紙ベースで出来ることは電子化できます。出来ない場合もありますが、それは予約表や整理券など紙を手渡す必要性がある場合、つまりほぼ電子的なデータがレガシーな媒体を用いてしか何かに作用することが出来ない場合だけです。紙で実現できることは電子化できますが、紙で実現できないことは電子化できません。いや、異論はあると思いますが、もちっとことばを補足するなら、現実的にソリューションとはなり得ない、でしょうか。魔法は存在しないのです。

紙で実現しているカルテは電子化可能です。使い勝手の問題は残りますが、いずれ技術の進歩かメリットの優位性がその問題を飲み込むでしょう。何年かかるかわかりませんが、いずれ標準的なフォーマットが定められ、それに乗っ取った形で実現すると思います。それはそれほど難しいことではないのですが、問題はそうやって得られた電子データをどうやって活用するか、です。電子化するためには多大な労力を要しますので、そうやって電子化するためにはメリットが必要です。電子カルテを導入することで(消極的に)コスト的にペイすることは、あまり期待しないほうがいいと思います。問題はどうやって活用するか、その点です。

コンピュータが解決するのは、「計算力の問題」だけです。こんな大量のデータ、紙ベースじゃ解決できないよ、という場合だけ、電子化がソリューションになり得ます。それ以外に、電子化が解決してくれることはありません。コンピュータははさみと同じで、はさみを使って芸術的な切り絵を作るのは人間の手です。はさみが自動的に動いて美しい切り絵を作ってくれるわけではありません。従って、コンピュータを使ってソリューションを考えるのではなく、ソリューションを実現するためにコンピュータを使う、がおそらくは正しい姿勢なのです。当たり前のことですが、電子化したらすべてがうまくいくと信じているひとが経営陣にいっぱいいるのは危険です。

以前からそのように考えてはいましたが、いくつかのセミナで考えがおおむね固まりました。これがもっとも大きな収穫だったのかもしれません。