検査者の装備について(私見)

新型インフルエンザの簡易検査について、機会があったので「検査技師が装着しなければならない装備」について考えてみました。根拠はありますが、あくまでも私見です。議論があったら歓迎します(それだけ理解が深まるはずです)。

  • 検査技師が検査室で採るべき装備について
    1. 「サージカルマスク」と「手袋」を最低限の装備とする。患者から離れて検査室で検査しているかぎり、N95とエプロンはおそらく不要。ゴーグル、フェイスシールドも不要。
    2. 手袋の着脱時に手洗いを行う。手袋をしたまま、他の機械などに触れない。
    3. 検体採取を検査技師が行う場合は、ゴーグル、フェイスシールド、エプロン、手袋、サージカルマスクを着用。吸引の場合は当然のことながら、綿棒で検体採取するときも同様にフルセット。
    4. キャビネットがあれば、キャビネット内で検査するのが望ましい。キャビネットがなくても、標準予防策の徹底で代用可能。
    5. 検体を搬送する場合は、袋を二重にして持ち運びする。いちばん外側の袋はチャック付きの密閉できるようなものがいい。袋の外側をアルコールで消毒する必要はない
  • 生理検査時の装備について
    1. 肺機能検査、脳波検査など、治療方針にあまり影響を与えない(もしくは可能性が小さい)検査については、新型インフルエンザの治療が完了するまで検査しない。もしする必要があれば、街頭患者を最後にまわすなどの工夫があればよい。
    2. 心電図検査については、ゴーグル、フェイスシールド、エプロン、手袋、サージカルマスクで実施。
    3. 心エコーについても、ゴーグル、フェイスシールド、エプロン、手袋、サージカルマスクで実施。
    4. 物品はすべてディスポーザブル


ものすごく簡単にですが、じつはこの程度のことなんじゃないかと。理由も細々書いた詳細版は以下の通り。

  • 検査技師が採るべき装備について
    1. 「サージカルマスク」と「手袋」を最低限の装備とする。患者から離れて検査室で検査しているかぎり、N95とエプロンはおそらく不要。ゴーグル、フェイスシールドも不要。
      • 海外では医療従事者は「N95」を装着するべき、としているところも少なくないように思える。新型インフルエンザは季節性と同じく飛沫核感染だとされており、理論的にはサージカルマスクで対応することが出来るはずである。また患者さんがくしゃみで発生させるエアロゾルと検査室で発生するエアロゾルとでは規模に大きな違いがあり、現時点では、検査技師が検査室でN95を使ってガチガチに防御する意義は薄い。同様の観点から、エアロゾルが飛散することを想定したごゴーグル、フェイスシールド、エプロンの類いも不要だと考えられる。
      • 新型インフルエンザについて、結膜炎の報告はそれほど多くないらしい。
      • 何らかの理由によりエアロゾルが大量に発生し、顔に飛散する可能性があるのであれば、ゴーグルなどを検討しなければならない。が、目に見えないエアロゾルをことさらに恐れる必要はない。
      • 問題なく利用できるのであれば、「エプロン」くらいは考慮してもいいかもしれない。ただし、理論上はディスポである。着脱時に手に飛沫が付着するため、そうでなければ白衣を着ているのと変わらない。白衣も予防衣である。
      • 検査技師がガチガチに防御してPPEを消費するのであれば、意義のはっきりしている看護部に少しでもまわしたい。
    2. 手袋の着脱時に手洗いを行う。手袋をしたまま、他の機械などに触れない。
      • 接触感染予防であり、インフル検査の従事者はずっとインフル検体を処理するのがいいのではないかと思われる。それが非現実的であれば(おおむねそうだと思うが)、手袋はディスポにするべき。着脱時にアルコール、ないし手洗いは必要かと思うが、ちょっと現実的ではないか……
    3. 検体採取を検査技師が行う場合は、ゴーグル、フェイスシールド、エプロン、手袋、サージカルマスクを着用。吸引の場合は当然のことながら、綿棒で検体採取するときも同様にフルセット。
      • 吸引はエアロゾルが大量に発生する可能性がありフルセットが推奨される。綿棒採取では、綿棒を鼻、咽頭に突っ込んでいる最中に患者さんがくしゃみ、咳をする可能性があり、顔面にエアロゾルをあびる可能性がある。そうであれば理論上フルセットが推奨されるだろう。患者さんに威圧感を与える装備なので、看護部とどうするか、話し合うのもいいかもしれない。
    4. キャビネットがあれば、キャビネット内で検査するのが望ましい。キャビネットがなくても、標準予防策の徹底で代用可能。
      • キャビネットがない病院もあるので、キャビネットの中でしなければならないというの現実的ではない。現実問題として、「感染しても即座に死に至るわけではない」うえに「飛沫核感染という感染経路がかなりはっきりしている」ので、キャビネットがなくても検査できないわけではない。キャビネットがないことを理由に、検査を拒否することは出来ない。
      • 新型は空気感染だという科学的根拠が出てくれば、すべてがひっくり返る。
  • 生理検査時の装備について
    1. 肺機能検査、脳波検査など、治療方針にあまり影響を与えない(もしくは可能性が小さい)検査については、新型インフルエンザの治療が完了するまで検査しない。もしする必要があれば、街頭患者を最後にまわすなどの工夫があればよい。
      • 肺機能、脳波、いずれも生理検査室で行われる検査であり、患者を病室から動かしてまで行う検査ではないと考える。周囲に伝播しやすい疾病を持つ患者は、極力病室から動かさない。治療方針に影響の少ない検査は極力しない。もちろん何らかの理由で必要だったら、実施する(とはいえ、肺炎を起こして重症化している患者に肺機能検査が必要な理由は思い当たらない)。
      • 新型インフルエンザも疑われるけどたぶん違う、肺機能検査はしてほしい、こういった依頼にどう対応するかが問題。あとから新型でしたと報告があったときも問題。咳がメインの患者に肺機能検査がまともに出来るとは思えないので、拒否してもいい気がする……(生理検査に従事したことがないのでそのあたりのさじ加減がよくわからない)
    2. 心電図検査については、ゴーグル、フェイスシールド、エプロン、手袋、サージカルマスクで実施。
    3. 心エコーについても、ゴーグル、フェイスシールド、エプロン、手袋、サージカルマスクで実施。
      • 患者さんの介助を必要とする検査については、せき、くしゃみなどのエアロゾルを浴びる可能性が高い。理論上、すべてフルセットが必要なはず。ケースバイケース。本人が納得できるのであれば、ゴーグルはべつに不要かもしれない。
    4. 物品はすべてディスポーザブル
      • もったいないからといって再利用すると、感染するぞ?


おまけ。

  1. 医療従事者がインフルエンザにかかったら?(もしくは疑い症例になったら?)
    • カ・エ・レ!あ、そーれ、カ・エ・レ!
    • 蔓延期であれば、医療従事者に検査キットを使ってインフルを確定させる必要があるだろうか。主治医がインフルエンザの疑いが高いと判断すればそれは本当にインフルエンザである可能性が高く、主治医がインフルだと診断すればそれはインフルエンザである。さっさとカエレ。
    • そういったひとたちは、持病がなければ一般人となんら変わらない。むしろ健康で働いているひとが大半であり、本来タミフルを投与する必要性の乏しいひとたちかもしれない。
    • 感染症学会は、早期のタミフル投与を勧めている。これは重症化を避けるためには必要なことだという認識。ただし、タミフルを投与しなければただちに重症化するというわけではない(逆は必ずしも真ならず)。
    • タミフル耐性を避けるためにタミフル投与を避けるべきだという議論もあるが、いまのところタミフル耐性を嫌ってタミフル投与を過剰に避けるのはいかがなものか、という議論もある。
    • 施設の方針にもよるが、検査せずに医師の判断でタミフル投与>帰宅、もしくは検査してタミフル投与>帰宅、でもいいのではないか。この場合、タミフルによって病気が短縮されることを期待している(それだけ早期に復帰できる可能性があり、マンパワーの減少を少しでも食い止めたい意図がある…つもり)。
    • 検査して陰性だったからタミフル投与はしません、という方法論は成り立たない。簡易キットの感度はすこぶる悪く、当てには出来ない。当てに出来ないものを当て込んで対応手順を作成するなど、危機管理が出来てないとしかいいようがない。コイントスでもしてみるかい?
    • 検査の呪縛から解き放たれましょう。検査技師の台詞じゃありませんが、検査は医師の診断を確認するために実施するようなものです。キットの性質、特徴を理解していれば、キットの結果でタミフルを投与するかどうかを判断するなんてことにはならないのでは?

それと、簡易検査で治療証明は出来ません。無駄ですので、患者さんも要求しないようにしましょう(キットがもったいない)。