清潔ってなんだろう

さいきんよく考えるのが、「清潔って何だろう」ってことです。

たとえば、さいきん外科の総回診にちょくちょくお邪魔するんですが、そこでよく目にするのが、ピンで固定されたドレナージチューブ。もちろんドレナージチューブが体内に引き込まれないための「固定」なんですが、とうぜんピンは「不潔」です。ドレナージも開放性のシリコンチューブだったりするので、体外に出ている部分は環境に汚染されていて「不潔」です。で、チューブが体内にささっている部分は、表皮のブドウ球菌などがいるはずなので「不潔」。でも、チューブの入っている体内は「おそらく清潔」。外科ではこの刺入部をうやうやしく消毒したりするんですが、これっていったい何なんだろうと思うことしきりです。

手術創は滅菌ガーゼで覆いますが、これも「パックから取り出すまでは滅菌物」で、体表に触れた時点で常在菌に汚染されて「不潔」になります。で、手術創から浸出液なんかが出ている患者さんだったりすると、滅菌ガーゼが汚染されて、そこで菌が繁殖する絶好の「培地」が出来上がるわけです。この滅菌ガーゼで覆うという儀式も、いったい何なんだろうと思います。いや、とうぜん変な菌がいる不潔な布で覆うよりはいいに決まっているんですが。

でも、環境にいる菌といえば、BacillusやMicrococcusなどの雑菌で、こいつらはほとんど病原性を持ちません。子どもが屋外ですっころんで作る傷のほうがよっぽど汚い。ところが子どもはほとんど感染しない。破傷風になるこどももいるはずですが、免疫の切れたはずの大人が破傷風になる数の少なさを考えてみても分かるとおり、じつはそれほど可能性として高くない。手術創は深いから、手術後の患者は体力が落ちているから、免疫がうんぬん……いろいろ理由は聞かされてきましたが、あらためて疑問に思っています。清潔って何だろう?

外科の患者さんを診ているとよく思うのが、人間、傷から感染するってのは本当に正しい考え方なのかな、ってことです。まったく間違っているとは思いませんが、あながち絶対正しいとも云えないんじゃないかと思います。