福岡市の対応について(個人的な感想)

福岡市の対応が問題になっていますが、個人的には(ほんっとに個人的な感想としては)それほど問題だっただろうかという感想です。

どうも記事を読んでいると、記者センセーサマの間に共通して、「遺伝子検査をしていたら感染拡大はなかった」という認識があるような気がします。そして今回の福岡市の対応は行政的な落ち度であり、公式発表は遺伝子検査を拒否したことに対する辻褄合わせである、と。落ち着いて考えてみましょう。遺伝子検査して「豚型インフルエンザ」だと判明して、それで何が変わりますか?タミフルの投与量が変わったり、治療期間が長くなったり、入院しなければいけなかったり、何かそういう「意味」のある結果が出てきますか?季節性のインフルエンザで、わざわざ全例遺伝子検査をして、Aさんはソ連型、Bさんは香港型、Cさんは……なんてやりますか?やって「意味」がありますか?感染経路が判明すれば、感染拡大を防ぐことが出来ますか?その考え方は、専門家がさんざん指摘した、あの水際対策と同じなのではないですか?

現在のトンフル対応は、原則「季節性インフルと同じ」になりました。豚であろうが、季節性であろうが、そんなことは関係なし。基本的には、患者さんがトンフルだと判明する頃にはみんな家に帰って安静にしています(重症例はとうぜん入院ですが)。トンフルだと判明したら、たぶん患者さんのところには「トンフルでした。家から出ないで、おとなしくしていね」という連絡が行くでしょう。一人暮らしだったら、行政が食料を届けたりしてくれるのかもしれません(まさかほったらかしというわけではあるまい)。でも季節性だったら?やっぱり「出歩かないで、大人しくしていてね」でしょう。禁足令に法的根拠があるかどうかは知りませんが、どのみち感染症対策の原則、「患者を移動させるな」は実施されるでしょうね。何も変わらないように思います。だったら、疫学的な意味のほかに、遺伝子検査が臨床的な価値を持つことはあまりないように思えます。定点観測でもいいんじゃないでしょうか。

IDATENケースカンファに参加したとき、新幹線の後ろの席のヒトがやたら咳をしていました。迷惑だなあと思っていましたが、私だったら、私がインフルエンザで倒れたとして、遺伝子検査は断固拒否するでしょう。他人に感染させないようにマスクをして、家でひっそりとしています(保健行政には積極的に協力しますが)。臨床的価値に乏しい遺伝子検査で、しかも豚型なんてレッテルを貼られて魔女狩りの対象にされるくらいなら、家でひっそりとしていたほうがナンボかマシ、だと思いますが、いかがでしょうか。

ところでアレ、一回検査すると費用がナンボするかみなさまご存知でしょうか。ついでに云えば、一日で処理出来る検体数がどれくらいかご存知でしょうか。飛沫感染する感染症で一例が感染疑い例になると、そのまわりでどれだけ検査対象者が出るかご存知でしょうか?その検体を運ぶのに、どれだけの職員の手がとられるか、ご存知でしょうか。だったら健康管理に人手を割いたほうがナンボかマシだと思いますがいかがでしょうか。となりのヒトがインフルエンザで倒れて、豚型かどうか不安でたまらないというのはわからないでもないですが、その不安の正体を、その不安が本当に適正な不安なのかどうか、もう一度見つめ直す必要はあるかと思います。別に定点観測でいいんじゃないかと思いますが……

でもそういう「医学の論理」が一般の人の感覚とはかけ離れたものだということは、ちゃんと認識していないといけなかったと思いますね。そういう対応を採るなら、ちゃんと公表しておくべきだったと思います。そこは大問題だったと思います。まわりから突かれて方針撤回だなんて、そんなことをしていたら迷走だと揶揄されても仕方がないでしょう。