抗生剤の適正使用が流行です。流行です、と書くと、何か流行に対して嫌悪感を表明しているようでアレですが（苦笑）、近頃の抗生剤の使い方を見ていると、若い医師ほどPK/PDにのっとった処方をしているように思います。ペニシリン系を一日3回ないし4回で投与するのはたいていの場合は若い医師です。ある程度経験を積んでしまうと、いままでどおりの処方から抜けられなくなる傾向があるようです。
ところが、起炎菌のカバーの仕方、つまるところ症例に応じて薬剤の抗菌スペクトラムを正しく捉えて処方しているのは、ある程度経験を積んだ医師ですね。ここはやはり経験がモノを云うのでしょう。不明熱に対して考えうる起炎菌をちゃんと捉えていると思えるのは、やはり指導医の処方です。ところが、抗生剤をだらだら長く使う傾向があるのは（CRPが改善するまで、とか）、その中間のあたりの医師たちです。もちろんこれはそういう傾向がある、というだけで、必ずしも全員そうだとは云いがたいのですが、当院ではだいたいこの傾向があります。いろいろな処方を見ていると、みんな試行錯誤しているんだなあと思います。
で、いちばんよろしくないのが、抗生剤の適正使用という概念を完全に取り違えている医師。不明熱に対して考えうる起炎菌をひとつに定めて、最初からベストの抗生剤を投与しようとする医師。これがたぶん、サイアクです。好中球減少時の熱発、これはP.aeruginosaに違いない！……それはいいと思うんですが、MEPM投与で原因検索の努力もせず（たしかにNF時の熱発は原因不明で終わることも多いように思う）、カテーテルが入っているのをころりと忘れてじつはCandida感染症、というパターンがけっこう多い。丁半博打じゃないんだから、と思うこともしばしば。
で、私がいちばん嫌いなのが、血液培養から出たブドウ球菌を頭からコンタミだと決めつける医師です。これがもっとも最悪です。コンタミに抗生剤を投与するのは適正使用に反する、と考えているのか、血液培養から何が出てきても、菌名を聞いただけでコンタミかどうかを判断しようとします。
私 ：「センセー、血液培養からブドウ球菌が出てますよ」
主治医：「え、ブ菌？コンタミかなあ」
私 ：「さあ、それは検査側ではどうにも……」
というこんにゃく問答が毎回のパターン。そして同日夕方。
私 ：「センセー、朝電話したブドウ球菌、どうやらS.aureusみたいですよー」
主治医：「え、S.aureus？もしかしてMRSA？」
私 ：「うーん、どうでしょう。まだ感受性がわからないからなんとも云えないですけど、入院歴長いし、MRSAの可能性高いんじゃないですか？」
主治医：「うーん……でもあんまり敗血症って感じじゃないんだよなぁ」
私 ：「カテーテルとかないですか？」
主治医：「ないよ。やっぱりコンタミかなあ……」
私 ：「うーん、でもS.aureusでコンタミって、あんまりないですよ」
主治医：「うーん……」
こんなに悩むくらいなら最初から二セット採ったらいいのにと思うんですが、ブドウ球菌の場合はたしかに解釈が難しい。でもこれがMRSAだとはっきりわかってしまえば、話は別です。通常、MRSAが皮膚の常在菌であるS.epidermidisなどを差し置いて陽性になることはないと思ったほうが無難です。つまり、MRSAはほとんどの場合において起炎菌なのです。
というよりも、MRSAが血液培養から出てきた場合は、それが起炎菌でないとはっきりするまで、それは起炎菌なのです。つまり、VCMを投与しないといけないのです。血液培養からMRSAが出たときにとりあえずVCMをかぶせるのは、個人的には乱用とは云わないと思います。もろもろの事情において、MRSAは起炎菌ではないと確信出来たらおもむろにVCMを中止すればいいのです。MRSAに対して様子を見るというのはあり得ない選択肢です。
菌が証明もされていないのに、医学的にも考えにくい不必要な症例に対して、心配だから、とか、レントゲンが改善しないから、とか、CRPが陰性化しないから、とか、そういう理由でだらだら使い続けるのが不適切な使用であって、医学的にMRSAの可能性が高いとき、菌が証明されているとき、起炎菌だと確信が持てるグラム陽性球菌が証明されているのに感受性が分からない場合に、とりあえずVCMをかぶせておくのは適切な使用だと思います。そのMRSAが起炎菌であったときに患者さんが被るダメージが大きいからです。様子を見るなんて選択肢があり得ない理由は、そこにあります。
私 ：「ところでセンセ、カテーテルないんですよね？」
主治医：「ないよ」
私 ：「末梢も含めて？」
主治医：「いや、末梢はあるよ」
私 ：「（あるんじゃないか）……膿んでない？」
主治医：「腫れて、ちょっとぐじゅぐじゅなってる」
私 ：「……」
末梢が感染を起こさないというエビデンスがあったら、誰か教えてください、マジで。
