髄液糖

髄液糖を測定するときは、必ず血糖も同時に測定してください。以上。

髄液糖の基準値は、だいたい血糖の2/3程度です。食事のタイミングなどによって乖離することはありますが、髄液糖の結果が妥当かどうかを判断するのに血糖は必須です。これを判断し損ねると、ちょっと怖い結果になる可能性があります。

4歳の男の子。熱が高く、ぐったりした状態で小児科外来を受診したそうです。セオリー通り、髄液を採取して検査室に提出がありました。外観はきれいで、ほんのわずかに日光微塵が認められるものの、まあまあきれいな髄液です。うろ覚えですが、血液検査の結果もそれほど悪くはなく、あまり緊急性を感じるようなデータではなかったように思います。

ところが、採取された髄液が、むちゃくちゃ量が少なかったのです。さもありなん、というかんじですが、遠心してグラム染色を実施出来るほど量が十分ではなく、しかたなく遠心せずに1μlだけとってグラム染色を実施することに。乾燥させている間に髄液の生化学的なデータを確認し、これまた大丈夫そうだと当たりをつけました。髄液糖は正常値、蛋白は若干高いものの、明らかに高いというわけでもなかったと思います。肉眼ではあまりわからなかったのですが血液が混入しており、そのせいで外観がきらきらしていたのかと納得しました。反射的に細胞数が血液混入によるものかどうかを計算してみたのですが……あれれ、計算が合わないなあ……若干高くないか、これ???

もういちど計算してみたものの、やっぱり比率が合わない。高い。ちょっと嫌な予感はしたものの、髄液糖はまあまあまともな値です。ただ、血糖が測定されていないのが気になりました。嫌な予感を抱えつつ、グラム染色へ。

結果、Haemophilusによる髄膜炎でした。

正直、ぶっとびました。主治医から問い合わせがあり、もしかしたら違うかもしれませんが、と前置きしてHaemophilusの可能性を伝えましたが、そのときは、あまり好中球も見えなかったんですよね……見えるには見えていたのですが。いつもきれいな髄液しか見ていないので、少しおかしなデータも、こんなものかなと油断はしていたと思います。数時間後にふたたび髄液を採取したのですが、こっちは見るに耐えない真っ白白の髄液で、検体だけで髄膜炎確定してもいいんじゃないかと思えるくらい特徴的なものでした。いちど見たら二度と忘れません。たった数時間なのに……

この男の子は治療の結果、後遺症も残らず元気に退院していったそうです。髄膜炎おそるべし、ですね。血糖を測定したら、高血糖でした。高血糖の理由は主治医に聞いていません。

ちなみに、このHaemophilusはBLNARでした。CTRXで治療したのですが、耐性度はそれほど高くなかったらしく、効いてくれたようです。さいきん耐性度の高いHaemoが多く見られるようになりました。アクトヒブが普及したら、もっとHaemophilus髄膜炎も減るんだろうになあ……とも思います。