便中白血球

新しく来た新人さんにグラム染色を見てもらうと、ほぼみんな例外なく、「菌」を見ようとします。便のグラム染色を見せると、ほとんどみんな、やたら菌がいる染色像に絶句します。当たり前と云えば当たり前なんですが、腸管内には常在菌が多数生息しており、各自勝手にバランスをとって共生しています。そこには一種の秩序が成立しており、感染や抗菌薬の投与によってその秩序が崩され、下痢を起こすわけです。

便のグラム染色像で見るべきなのは「菌」ではなく、全体像なんじゃないかなぁ、と最近よく思います。私はほとんど菌を見ていません。見ると云えばCampylobacterくらいでしょうか。入院患者の便であれば、それすら見ていません。さすがに便でCampylobacter以外の菌は判別出来ませんし、いくら菌を見ても面白くも何ともないからです。私はほとんど、白血球があるかないかを観察するだけにとどめています。それだけで、十分有用なんじゃないかと感じています。

私は入院患者の便培養には意味がないと考えているひとで、入院後一週間以上経過した患者の便培養は、血液寒天とMacConkey寒天培地、MRSAのスクリーニングしか必要ないと思っている人です。衛生環境が整えられた入院環境で食中毒発生する可能性はかぎりなく低く、また発生するなら集団発生するはずだ、と考えるからですね。お見舞いの品をつまんで感染するってのもありえますが、これはまあ特殊ケースでしょう。第一に考慮することではないと思います。こんなレアケースを常にカバーし続ける意味はないと考えますので、カバーしていません。

入院患者の便に白血球が見えた場合、まずは抗菌薬関連腸炎を最初に考えますので、とりあえずCD toxinの検出を試みます。事前に了承を取るのはいちいちメンドクサイので、陽性に出た時のみ主治医に連絡を取って会計を取るわけです(スカすれば費用は検査室の持ち出しになるわけですね)。これで外すと、逆に話がややこしくなります。便中に白血球が出ないといけない理由が、どこかにあるわけですから。

きょうも一例、入院患者の便に白血球が見えたので勝手にtoxin検出を実施したのですが、こんかいの症例では、一週間ほどCEZを使用していました。うーん、CEZ単独で抗菌薬関連腸炎を起こすのは比較的珍しいと思っていたんですが、出る人はやっぱり出るんだなあと思った次第です。

白血球が崩れてきてよくわからないときは、メチレンブルー染色に頼ります。白血球の核がかなり明瞭に染まるので、はっきりと観察出来ることがあります。チールニールゼン染色の後染色で使いますので、うちには大量に常備してあります。けっこう便利です。