消えていく情報

喀痰のグラム染色を至急で見てほしいということで、さっそくグラム染色して鏡検してみました。外観はMiller&Jonesの分類でP3、G5のきれいな膿性痰です。像としては、フレッシュな好中球がもっさり、核は左方偏移が見られ、急性の感染症を示唆しています。貪食像こそ確認出来ませんでしたが、S.pneumoniaeが多く見られました。

で、「ああ、S.pneumoniaeの肺炎ね。血ガスとかCRPはどうかなー」と思って生化学の値を調べてみたんですが、そこで尿沈渣が細菌(+)、白血球(+)という結果を見てちょっと混乱しました。上皮細胞も見えるんですが、これだけ見ると、あれ、focusはどっちだろうと悩んでしまいます。自分で鏡検したグラム染色像の炎症所見はまず間違いないので、呼吸器系の症状があるなら、focusは間違いなくこっちです。発熱の有無も知りたかったんですが、尿路系の症状もあるんだったら、熱源がどっちかわからない。尿路に菌がもっさりいて白血球があり、熱があるなら、サイアク腎盂腎炎まで疑えます。おっかしいなー、と思って尿沈渣の検体をもらってグラム染色をしてみたところ、疑問はすぐに解決しました。

あ、常在菌のコンタミだ。グラム陽性の桿菌がちょろちょろ。

まあ考えてみたら妥当というか、なんと云うか……患者は予想通り、女性でした。膣内の常在菌がコンタミネーションしているものと判断します。白血球が見えた理由も同じでしょう。染色像では核が破壊されたoldな白血球で、尿路系の感染を示唆する染色像ではありませんでした。培養する意義も、治療する意義も、どちらもまったくないでしょう(尿路系の症状がなければ)。


とまあ、自分で染色したものなら自信を持って判断できますが、検査値だけ見ると消えてしまう情報って意外に多いと思うのですね。医師から検査側に検査オーダが来たとき、検体は来ますが、患者情報がほとんど根こそぎ消えてしまいます。せめて主訴は何で、何を疑っているのかくらいは伝えてほしい。でないと、こちらから結果を返すときにもいろんな情報が消えていくと思うのです。検査は患者の疾患の切り口のひとつに過ぎません。最終的に患者を見ているのは同じなのだから、医師と同じ情報はこちらも欲しいのに……