ある日の出来事

「すみませーん、かいせん担当の◯◯でーす」

(かいせん……?疥癬担当……?ああ、ああ、回線ね、ネットの売り込みか)
 身動きが取れないので、ぼんやりとしながらそんなことを考える。女性の声。営業用の声音なのか、抑揚が異常なくらいフラットで、とても営業に来たとは思えない。
 次いで、ドンドンドン、という、わりと容赦のないノック。とても(推定)女性とは思えない、力のこもったノック。呼びかけ担当と、ノック担当がツーマンセルで営業しているに違いないと確信させるに十分な迫力だ。
 まあ、身動きが取れないので、ぼんやりと、仕方なくだが、無反応でやりすごす。居留守を使いたいわけではないし、そもそも部屋の電気がついているので、相手も部屋に人がいることは知っているだろう。だから居留守等無意味だ。ドンドンドン、と、もういちど、先ほどよりも迫力20%マシくらいのノックが響く。闇金の取り立てはもっと迫力があるのだろうかと、無意味なことを考える。幸いなことに、取り立てを受けた経験も、予定もないのだが。
 「チッ」という舌打ちが聞こえてきそうな沈黙ののち、カツカツと足音が遠ざかっていくのが聞こえてくる。諦めたようだが、まあ、ゴメンネ。

 俺、いまポンポン痛くてトイレがお友達なの。