人件費比率アレルギー

さいきんじゃ検査技師も「まねーじめんと」をしないといけないらしく、先日ウチの技師長にもそのようなことを云われました。病院における人件費比率というのはすさまじく、たいてい赤字病院の経営を圧迫しています。先日の講義によると、黒字の病院は人件費比率が低く抑えられており、人員が効率的に動いているのだそうです。そら、そうでしょうなあ。

しかしそのあたりの講義を聴いていつも思うのは、「人件費が低く抑えられている」から病院が黒字になるんじゃなくて、「いろんなことがうまく回転した結果、人件費比率が低く見えている」だけなんじゃないかと思うのですねえ。この比率というやつはクセ者でして、まあ簡単に考えてみてもわかるとおり、人件費が固定でそのまま総収入が大きくなれば、それだけで収入に対する人件費比率は低くなります。当たり前ですね。病院の業務をまわすのにある一定の人員は必要ですので、問題は病院の規模の割に収入が伸びないことなのです。その結果、人件費が高く「見える」。従って、赤字の病院はすべからく人件費比率が高くなります。とーぜんです。ほとんど中学校数学の世界じゃないかと思います。

つまり、問題は人件費比率が高いことではないのではないかという結論です。従って、ぎりぎりまで切り詰めて人件費を抑えることに意味があるのだろうかと思ってしまいます。こういうと、「いやいや、やはり現状以下の人員で動かせるのであれば、それはやはり無駄でしょう」と云われるのですが、どうでしょう?人員が減ればそれだけ現場の負担は増えますので、見えないひずみは生まれます。その分、ミスが増える。そのひずみを現場がなんとか解決しながら、日常診療をまわしているのですね。人件費比率の話が出てくるたびにそう思うので、もう人件費比率の話をする講義に対しては無条件で反感すら感じます(苦笑)。

じゃ、どーすりゃいいんだよ、そのまま黙って見ているわけにゃいかねーだろ、経営が苦しいときゃリストラするってのが定石じゃねーか、って思うのが普通ですが、これがやっぱり難しい。ひとつは当然、平均在院日数を短く切り詰めることが必要です。病床利用率は当面無視してかまわないんじゃないかと思っています。平均在院日数を切り詰めていくと、患者の回転が速くなりますので、その事務手続きが増えて、業務が煩雑になります。外来の人数を減らすとルーチンがまわらないのでその日単位で病棟から看護師が出向する、なんてことをやっている病院もあるかと思いますが、正しく平均在院日数を切り詰めるとかならず病棟業務(おもに事務)が煩雑になり、間違いなく忙しくなります。このときに必要な人員が確保できていないと、ここで蹴つまずくことが予想されます。従って、「いま」必要ないから減らすのではダメなのです。問題は人件費ではないのだと思います。だいたい、口うるさい事務屋さんが、いままでだって余計な人員を置いておくなんてことするわけないでしょ?

人員が削られて現場がまわらなくなったとき、病棟の婦長さんはなにを考えるでしょうか。さあ、どうでしょう?人員を要求すると、きっとそのことで人事的な評価は下がりますね。怖い怖い。人員要求はまず通りません。話すら聞いてもらえないでしょう。従って、病棟婦長さんもまずその線は考えないでしょうね。じゃあ、どうするのか。ここで登場するのが病床利用率です。病床利用率をあげると人事的な評価につながりますので、おおむねみんなこの基準に忠実です。つまり、病床利用率をあげるために、退院させられる患者をそのまま様子見するのです。すると退院手続きの数も減ります。病棟も秩序を取り戻します。平均在院日数はなぜか下がりませんが(当たり前ですが)、もうひとつの指標である病床利用率は上がります。メデタシメデタシ。

これを繰り返すと、なぜだかわからないけど病院の収入が減ります(当たり前ですが)。病院の収入が減るので、人件費比率が上がります。一般的に人件費比率が高い病院はダメだと信じられていますので、人件費を切り詰めようと云う発想になります。従って、これを繰り返すと、自然と病院は倒産します。

当然のことですが、医師不足によって部門を閉鎖した病院も同じ運命を辿ります。部門閉鎖すると、その部門が生み出していた収入がごっそりなくなるからです。同じことが起きると考えられます。これが病院の現状じゃないでしょうか。

おそらく人件費はその規模の病院が必要としている人員の規模を表していますので、問題は「その人件費に見合った収入をどうやって生み出すのか」でしょう。削るのには限界がありますからね。