病床利用率について(思うこと)

患者を治療して出力する、ある装置があると仮定します。つまり、

A→□→B

という装置ですね。この装置に病気の患者さんを入力すると、一定期間の後に患者を治療して出力します。っていうか、まあ、装置というか、病院のことなんですけどね。ともかく、そういう装置があると仮定しましょう。この装置は優秀ですが、当然許容量があります。一度に処理できる患者さんの数が決まっている。その数は何で決まるかというと、病床数であるか、もしくは内部リソースの処理できるぎりぎりいっぱいであるか、そのどちらかでしょう。病床数以上の患者さんを受け入れることは出来ませんし、病院リソース(看護師やドクターの仕事量)を上回る患者さんは受け付けられません(現実はオーバーワーク気味ですが)。そういう装置がある。

この装置が受け入れられる物理的な限界は病床数で規定されますが、その利用率については95%くらいが装置として適正なのではないかと考えてみました。100%であればフルパワーですが、飛び入りの患者も処理しなければならないので、生産力に余力が必要です。従って、100%を超えるようなことがあってはいけません。救急患者を待たせるようなことになると、命に関わるからです。従って、装置としての使命を果たせなくなります。しかし、あまりにも低い病床利用率、これも装置の力が余っていることを示しますので、経営する側にとっては穏やかではない話です。つまり、これは入力する患者がいないということですから、装置のランニングコストが気になるところですね。

さて。
この装置で収入を得ようと考えると、(1)装置の許容量(病床数)ギリギリいっぱいまで患者を入れる、(2)装置の回転数を上げる(つまり早く出力されるように頑張る)=平均在院日数を短くする、のどちらかということになります。この点で、長期入院を必要とする療養型病床は嫌われるのでしょう。

ところで、この二つの指標は、

  1. 病床利用率(%)=入院患者延数/許可病床延数*100
  2. 平均在院日数(日)=(入院患者延数-退院患者数)/[(新規入院患者数+退院患者数)/2]

で求められますね。
従って、病床利用率の式を変形して、「入院患者延数=」の形にして平均在院日数の式に放り込むと、平均在院日数が短くなればなるほど病床利用率も低くなる、という結論になります。

このエントリは私の感覚だけでものをしゃべっていますが、病床利用率が低いのと平均在院日数が短いのと、どちらが望ましいかといえば、平均在院日数の短いほうでしょう。病床利用率は、病院の経営指標として、あまり適切ではないのではないかと思います。ときどき病床利用率がいかにも「その病院の利用率」みたいに論じられているのを見ることがありますが、少しおかしいんじゃないかと思った次第です。病床利用率が示しているのは「生産力が余っているよ(もしくは余っているかもしれないよ)」ということだけではないかと考えました。実際にはどこに患者さんの在院日数が延びる要素があるのか、きちんと検討してみないといけません。

ベッドを患者で埋め尽くさないと気がすまない経営者の方はご用心。なぜなら、病院のベッドがすいていても、回転さえよければ黒くなる可能性が考えられるからです。むしろベッドを埋めることに腐心すると生産力を削がれ、患者さんの流れが滞る可能性もあるでしょう。病院は回転を上げるほうに注力すべきと考えます。患者さんも入院日数が短いほうがうれしいですし。