coagulase agglutination test

一般的な検査室において、S.aureusとCNSを鑑別する際には、おそらくラテックス凝集試薬を用いてコアグラーゼの検出を試みるであろう。S.aureusが産生するコアグラーゼには二種類ある。

  1. bound coagulase(clumping factor)
    • 結合型コアグラーゼ。クランピング因子とも云う。S.aureusの菌体表面に発現しているため、結合型コアグラーゼという。検出の際にはslide coagulase testを用いる。
  2. free coagulase
    • 遊離コアグラーゼ。S.aureusが産生する他、有名どころではS.intermedius、S.hyicusが産生すると云われる。検出の際にはtube coagulase testを用いる。

基本的に(簡易同定レベルでは)、S.aureusを同定する際には、遊離コアグラーゼの存在が決め手となる。しかし、ウサギプラズマを用いるこれらの方法は、ルチンに用いるにはめんどくさすぎる。S.aureusを同定するのに一日さらに余計に時間をかけることは、現代の医療スケジュールではおそらく許容されない。

StaphaurexやPastorex StaphPlusなどの迅速凝集試薬が見ているものは、結合型コアグラーゼの方である。これらのラテックス凝集試薬は、MRSAにおいて、時折偽陰性を出すことが知られている*1

ある研究*2によると、臨床検体から分離されたMRSA52株に対して、Pastorex StaphPlusは2株の偽陰性を出したという。従って、感度は96.2%となる。また、StaphaurexPlusは6株が偽陰性を出した(感度88.5%)。n数の少なさ故のぶれはあるだろうが、MSSAに対する感度(それぞれ98.8%、100%)と比較すると、決して稀ではないことが伺える。

当院では(なぜか)Staphaurexを愛用しているが、個人的には、それほどMRSAで偽陰性に遭遇した経験はない。しかし、年に一回くらいは、どこからどうみてもS.aureusなのに凝集がこない、というケースを経験する。そのような場合は自動分析機にかけて同定してしまうが、このような偽陰性がMRSAに多いのは、菌体表面を覆うPolysaccharideがラテックス試薬の標的を覆ってしまうことによるようだ。MRSAの方がMSSAよりも、このPolysaccharideの産生量が多いらしい*3

ルチンで機械的に同定しているS.aureus、いろいろと面白い。

*1:Ruane, P. J., M. A. Morgan, D. M. Citron, and M. E. Mulligan. 1986. Failure of rapid agglutination methods to detect oxacillin-resistant Staphylococcus aureus. J. Clin. Microbiol. 24:490-492.

*2:Weist K, Cimbal AK, Lecke C, Kampf G, Ruden H, Vonberg RP. Evaluation of six agglutination tests for Staphylococcus aureus identification depending upon local prevalence of meticillin-resistant S. aureus (MRSA) J Med Microbiol. 2006 Mar;55(Pt 3):283–290.

*3:Ruane, P. J., M. A. Morgan, D. M. Citron, and M. E. Mulligan. 1986. Failure of rapid agglutination methods to detect oxacillin-resistant Staphylococcus aureus. J. Clin. Microbiol. 24:490-492.