山の冷気と回らない脚 〜 BRM102 高松400 〜

2014年の正月は暖かかったと思う。もちろん、想定よりも、という意味だが。

徳島市内を抜けたあたりまで、むしろ暑かった。インナにコールドギア、裏起毛のジャージの上に、さらにGoreのウィンドストッパを羽織っており、お腹にはカイロを仕込んでいる。フェイスマスクも装備。シューズカバーもつけて、ほぼ全身を冬用装備が覆っている。ここまでかなりのオーバーペース、ややぶん回し気味に走ってきていたため、かなり汗もかいていた。

そのうち、徳島市内を抜けて、桑野、新野あたりに入ってくると、急激に気温が落ちた。たった100m程度とはいえ、山に入ったというのも大きかったのかもしれない。いままで暑いと感じていたのに、急激に体温が奪われていく感覚にぞっとした。この徳島-日和佐ラインは以前にも走ったことがあるが、昼間走ったときにはこんなことはまったく感じなかったし、考えもしなかった。登った分は必然的に下らないといけないが、その下りでさらに体温を奪われる。

ふと気がつくと、脚がまったく回らなくなっていた。メータを確認すると、まだ115kmくらいしか走ってない。でも、脚がほとんど回らない。下りですら、25km/hを超えることが出来ない。脚が重たい。漕ぐのがとても苦痛だ。でもまだ、120km地点だ。残りは280kmもある。全体のまだ3分の1も走っていないのだ。時刻は夜中の1時くらいか。まだ夜明けまで6時間もある。まだ、6時間も、この暗闇の中を、走り続けなければ、ならないのか……!

正直なところ、ここで一回気持ちが折れかけた……が、まわりを見渡して、かなりヤケクソ気味に気持ちを立て直す。ここでリタイヤすると、その方がめんどくさいことになりそうだと思った。まず夜中なので、店が開いてない。そのため、この寒さをしのげる場所がない。電車もない。バスもない。だからバス停も見当たらない。峠道だから、ひとがいない。よって、電話ボックスもない。電話ボックスはとても暖かいが、夜中に人気のない電話ボックスのなかに人が入ってくずおれていたら、私だったら遭難者だと判断するだろう。そのまま救急車直行である。まずありえない選択肢だ(都会であれば、酔っぱらいと見なして放置するかもしれないが)。

ゆっくり脚を回しながら、自分の状態を確認する。ゆっくりなら、まだ、回せる。要するに、15km/hで迫ってくる足切り君と競争して、勝てばいいんだろう?そう、思い直すことにした。だったら、いままでにまだ貯金もあるし、20km/hくらいでゆるゆる回せば、時間はまだなんとでもなる。要するに、諦めなければならない理由は、まだ、たぶん、ない。

自分の居場所を確認する。日和佐の道の駅。室戸岬までは、ひとつだけ峠を越えなければならないが、そこを超えてしまえば、あとはフラットだ。風さえ吹いていなければ、まだ何とかなりそうだ。逆に、風が吹いていたら、もう本当に無理かもしれない。風をいなして走る技術も体力もない。でも、やってみないとわからない。

ペダルに力を入れて、なんとか走り出す。現実的には、リタイヤするならココ日和佐の道の駅が最後の場所だっただろう。体のあちこちが痛みだしていたが、脚自体はまだ回る。

自転車は、ペダルに力を入れて漕がなければ、前には進まない乗り物なんだな……

こんなときにこんなことを考えている自分でも少し呆れながら、こんな単純なことに妙に納得している自分がおかしかった。