誤嚥性肺炎の染色像

先日、救急のドクターが「いい痰、採れたよ」と云いつつ、グラム染色を見にやってきました。

見てみると、たしかに色合いも粘度も「喀痰!」という感じなのですが、よくよく見てやると、ちょっと違うかんじ。ところどころに食物残渣が見られ、痰の色も膿性痰と云うよりは、タバコのヤニで濁った痰、とでもいうような色合いでした。スライドを作りながらいろいろ聞いてみると、

  • 失神で運ばれてきた。失神の原因は不整脈らしい。
  • ただの不整脈にしては、やたら熱が高い。
  • レントゲンで肺炎像。肺炎がかぶっているのではないか?

というわけで、肺炎を疑って喀痰を提出してきたようでした。

ここらへんの情報が、検査技師にとってはすこぶるありがたいのですが、こちらから要求しないと主治医はなかなかここまで情報をくれません。この救急のドクターは感染症に興味を持って勉強しているそうで、少し聞けば必要な情報はほとんど教えてくれました。

後日写真でも載せようかと思っていますが、きわめて特徴的な染色像で、グラム染色で赤く染まった無機質な「何か」が多数見えます。これは胃液の逆流によって起きる誤嚥性肺炎に見られる染色像だそうで*1、その点を中心に主治医と話し合いました。Candidaがやたら見えますね、という話もしたのですが、それは肺炎とはあまり関係がなさそうですね、という返事。すばらしい。こんな返答が帰ってきたのは初めてです。ステロイドの既往もなく、顆粒球減少もないためですね。白血球の貪食像こそ確認できませんでしたが、食物残渣があることと、無機質な赤い染色物が確認できること、優位な菌がとくに見られないことなどを理由に、グラム染色上は胃の内容物などによる誤嚥性肺炎が疑われます、という返答になりました。

使う抗生剤は……、という話になったのですが、Candidaが多数見えることから、口腔内の衛生状況はあまりよくないだろうと思われること、高齢であること、とりあえずマスクはぎりぎりつけずに済んでいること、近くに病院の入院歴はないことなどから、主治医からはCTRXはどうでしょう、という話になりました。私も同意見でしたが、別の上級医からはねられて、けっきょくCAZ+CLDMという「スタンダード」な処方になった、とのことです。

べつにどこぞの学会に楯突くわけではありませんが、緑膿菌を巻き込まないという観点から、肺炎を見たらモダダラ!という選択はどうかと思います。別にCTRXでも横隔膜上嫌気性菌はカバー出来ますし、問題はありません。この場合は、患者が高齢であったこともあり、腎機能がどの程度抗生剤を許容出来るかはわからなかった、というのもあります(クレアチニンは若干高めでした)。

培養は、口腔内常在菌のみでした。おそらく、誤嚥性肺炎で問題なかろうかと思います。

*1:ひと目でわかる 微生物検査アトラス参照