この道しか選べない

よく、あとから過去を振り返ってみて、「ああ、人生無駄なことなどなかったな」という感想を聞く。私自身も、何度か経験がある。過去に趣味でやっていたことが意外なところで役に立ったり、自分の方向性を決めたりする。だから、過去を振り返ってみて、「ああ、無駄なことなどなかったのだな」と思う。だから「何でもやってみるべきだ」などといったアドバイスにもつながりやすい。場合によっては、何か超常的な運命を感じたりすることもあるかもしれない。しかし、これはおおむね勘違いである。

完全に順序が逆で、正しいのは、「持っているスキルでしか、歩く道を決められない」、だから「あるとき学んだことが、道を選ぶのに役に立つことがある」、そして「選んで歩んできた道は、過去のいずれかの経験やスキル、知見があったからこそ選べた道である」。従って、過去を振り返った時、「ああ、無駄なことはなかったな」と思うのは、当然ことである。その経験があったから、その道を歩むことが出来たのだから。

三角関数なんて、将来何の役に立つかわからない」という高校生がいるようだが、誰かがちゃんと教えてあげてほしい。その答えは、「三角関数を学んでおかなければ、三角関数が必要とされる道を選べない。だから学んだほうがよい」。ちゃんと目標がはっきりしているひとは、三角関数なんて必要ないこともあるだろう。そうでないなら、自ら可能性を狭めてしまうのは愚かなことだ。

もちろん、ことの善し悪しは別ではあるが。