夜スタートと35km/hの列車 〜 BRM102 高松400 〜

自転車を初めて、すぐにブルベのことを知った。というか、PBPのことを知った。自転車で1200kmを、90時間で走る。ちょっとにわかには信じられないことだ。乗らないひとからすれば、自転車で10km先の店に行くのですらためらわれるだろう。なのに、1200kmだ。正直なところ、クレイジーだと思った。クレイジーだとは思ったが、自分には関係ない、とまでは思わなかった。できるかどうかはわからないが、面白そうだとは思った。

4年に一回、フランスで行われる世界最大のブルベ、PBPに参加するためには、200、300、400、600の4つのカテゴリを1年ですべて走破し、SRの認定を受けることが最低条件だ。2014年はまだPBPイヤーではないが、いろいろな事情があって、私はこの高松400を絶対に落としたくなかった。仕事の関係上、400を無理せずに取れるのがこの高松しかなかったのだ。

2014年初のブルベであるBRM102高松400は、高松駅20:00に出発し、室戸岬で折り返して戻ってくるという往復コースだ。合計400km。純粋な往復コースではないが、ほとんどのコースは重複している。今回は高松を夜に出発するため、ナイトランが必須である(というか、400はナイトランが必須)。冬のナイトラン、夜は山の中でほとんど仮眠する場所なし、電車は動いておらず力尽きてもエスケープする手段がほぼゼロ。ブルベは決して危険なスポーツではないが、認定距離によっては必ずナイトランしなければならないという点が通常の長距離イベントとは決定的に異なり、参加者にはそれなりの装備と準備と覚悟が求められる。もちろん、リタイヤしようが何をしようが、400kmの全編を通じて、すべてを自己解決する前提での準備も求められる。

こう書くと、頭のネジが吹っ飛んだイベントだとしか思えないが、BRM102には、日本中からなんと70人前後のランドヌールがエントリしていた。

高松駅夜の8:00に出発し、70km付近にあるチェックポイント1を通過、そのまま室戸岬へ向けてひた走る。地図はほぼ丸暗記していたが、まずは近くの参加者をつかまえ、そのまま張り付いてPC1(チェックポイント1)くらいまでは走ろうと思っていた。ポイントポイントの細かい距離まではさすがに覚えていなかったので、その方が無難・安全だと思ったのだ。ドラフトが効かないレベルで車間を空けて走れば、張り付き虫でもそれほど嫌がられもしないだろう。

が。

気がつくと、平坦路でどんどん速度が上がっていく。いつの間にか、気がついたら平坦35km/hで走る快速列車になっていた。ついていけるのはついていけるし、その気になったら交替も出来ると思うが、このペースで400kmも走れるわけがない。できれば千切れて落ちたいのだが、後ろも人がいるし、車は横を通るしで、どうにも避けづらい。何も考えずにそのままスピードを落としていけばよかったのだが、そうなると今度は地図がわからないしなー、というわけで、何となくそのままついていってしまったのである。

気がついたら、すでにPC1が目前だった。想定よりも、ずっと早い。少し脚にだるさを感じる。これはまずいのではないだろうかとかなり真剣に思ったのだが、もうやってしまったのでどうにもならなかった。この影響は丑三つ時を過ぎて私を苦しめることになる。