九州ワンデイツーリング(別名修行ツーリング)2

駆け込み乗車は非常に迷惑である。危険だし。

余裕のない行動をせざるを得ないということは、どこかにそのような余裕のない行動を強いる理由がある。その理由が、他にも重大な影響を及ぼすことは非常に多く、多くのヒトがケチのつけ始めなどと表現する不幸の連鎖は、じつはおおむね似たような要素によって引き起こされていることが多いのではないかと思っている。今回の私も、おそらくそうだ。

翌日、フェリーは無事に着岸した。さすがにここでトラブったりはしなかった。

自転車は畳んで袋に入れた上で持ち込むとタダだが、車両扱いで甲板に止めると多大な料金を取られることが常である。正直、逆だろうと思う。持ち込みの方が明らかに他のおきゃくさんに迷惑で、料金を徴収する理由がある気がする。甲板に止めるといったところで、それほど邪魔にはならないわけだし、これで部屋のランクが変わるくらいの料金を取られるのはちょっと納得できない。

とまれ、私は無事に九州の大地を踏みしめることに成功した。じつは二回目だから、深い感慨はまったくない。すでに見た光景だ。

きょうのプランは、いずれ走りたいと思っていたやまなみハイウェイの様子を見に行こうというものだ。ここを抜けて阿蘇山外輪に至ることも出来るが、正直ツーリング荷物つきで走れるとは思っていなかったため、別に計画を練って走るつもりだった。実際にはどのくらいの斜度なのか、せっかくだからいずれいくときのために試走しておきたいと思ったのだ。

カメラと補給食をジャージのポケットに入れて、後の荷物をロッカーに放り込む。ぐるっと周回して、帰るときに回収して帰るというハラだ。そのため、必要最小限の荷物しか携行しない。もとよりバッグないし。

さて、出発しようと思ってサイコンの時計を確認したとき、そこではじめてサイコンが死んでいることに気がついた。あれ?

おおう・・・電池切れじゃねえか。

10000kmは持つという触れ込みだった気がするのだが、実質5000kmくらいしかもっていないのではないか?出先で交換すると設定がリセットされてしまうのではないかと思い至る。タイヤ周長を正確に覚えていないし、設定の仕方なんか覚えていないから、たぶん設定できない。でもこのままだと、速度と距離が計測できないからとても困る。とくに距離が計測できないと、もろもろ困ることが多いのだ。

どうしよう?思い切って変えてみようか……もしかしたらリセットされないかもしれないし?

520円払ってコンビニでボタン電池を購入し、交換した。結果は惨敗、みごとに設定はリセットされ、おそらく実際の4/3くらいのタイヤ周長設定で走らざるを得なかった。おかげさまで、(メータの上では)あっさりと40kmとかマークされて、非常に気持ちよかったが、正確に計測できないため、サイコンとしては役立たずであった。

これだけでずいぶんとげんなりした。フェリーの時刻に間に合わなければ、かなり不味いことになる。距離が計測できないということは、そう考えるとかなり不味い。不味いがもう仕方がない。速度は体感で何とかなるから、大して問題ではないのだが。

気を取り直して、本格的に走ろうとメットをかぶろうとした。そこでふと気がついた。

おおう……パットにカビ生えとる(!)orz

びっくりした。そりゃ、条件が整えば生えるだろう。そういえば、しばらくパッドの掃除やってなかったしな。もう一ヶ月くらい走ってないし。一ヶ月、汗にまみれたまま暑い部屋にほっておかれたら、そりゃ生えたくもなるだろう。

幸いにして、下船してからメットは一回もかぶっていなかった。不幸中の幸いである。パッドをべりべりとはがし、ゴミ箱に捨てる。もう3年近く使っているから、買い替える決心をした瞬間だ。意を決して荷物からサイクルキャップを取り出し、サイクルキャップをかぶった上でパットを外したメットをかぶる。

この時点ですでにかなりげんなりしており、朝の異様な暑さも相まってかなり走る気をなくしていた。諭吉さんを犠牲にしてやってきたのに、すでに帰りたいと思い始める始末だ。

もう適当に方向を決めて、適当に大分の街を流すのでいいかと思い始めていた。腕時計に方角を表示させ、そのまま南に進路を合わせて適当に走り始める。運良く湯布院につながる210号線を見つけたら乗っかろう、くらいの気持ちだった。大分の街は暑く、海沿いだからか異様に湿度も高い。自転車で走るには過酷な環境だ。いま思えば、適当に街を流すのであれば別府がよかったと思うが、もうげんなりしすぎていて頭がよく回っていなかったというのが正直なところだ。

それに、ちゃんと「走りたい」という気持ちもまだどこかに残っていた。

南に進路を取って適当に流していると、やがて大分ICが見えてきた。地図を確認すると、ここから比較的すぐに210号線に出られることがわかる。せっかくだから210号線に進路を修正し、そのまま当初の目的通り、やまなみハイウェイに向けて走り始めた。

坂を走り始めてすぐに気付く。暑さのせいか、気持ちが乗らないせいか、はたまた直近に変えたリアスプロケのせいか、メンテナンス不足か、体調が悪いのか。足がまったく回らない。全体的に軽いギアになっているはずなのに、とてもつもなくギアが重く感じられるのだ。リアのリムにブレーキがこすっているんじゃないかと心配になって確認したくらいだ。

足が回らない。これから山を登ろうかというヒルクライマの足が回らない。悪い予感しかしない。

この悪い予感は、別の形で的中することになる。余談だが、別の形で的中したということは、その予感は外れていたということだ。しかし、こんかいのこれは、別の形で的中して、さらに予感そのものも間違ってはいなかった。