Kaplan criteria(続)

病院におけるアウトブレイクにおいて、Kaplan criteriaが役に立つかどうかは不明である。そもそも三日以上の入院生活をしている患者にとって「便培養で有意な菌が検出されない」というのは「(ほぼ)当たり前」の話であり、院内環境のアウトブレイク検索に便培養は不要ではないかと考えられる*1。healthcare settingにおける感染性胃腸炎アウトブレイクの検索に、便培養は必ずしも必要ではない。

罹病期間が12時間〜60時間というのも微妙だ。ある文献によれば*2、嘔吐は発病初日でおおむね鎮火するのに対して、下痢はやや遷延する傾向があった(全体の25%弱が7日後も下痢をしている)。院内アウトブレイクを詳細に観察したことはないが、一般的に云われている罹病期間よりもやや長くなる患者が存在するかもしれないということは、頭に入れておく必要があるように思える。ただし、上記論文はcommunityのデータであり、どうやらボランティアの協力によってなされた研究のようなので、そのあたりも加味する必要はあるかもしれないが……

おそらくこのKaplan criteriaは、避難所などの医療資源の限られた環境においてこそ役に立つ基準ではないかとも思う。必ずしも生活環境の良くない集団生活の現場が、Norovirus胃腸炎のもっとも発生しやすい環境だ。しかし、どちらかというと市中の方が下痢の原因は多く存在し、その意味でこんどは便培養が重要な意味を持ってしまう。しかし、避難所の生活者に便培養を行うことはできないだろう(また結果を待つのは意味がない)。帯に短したすきに長し、といったところだろうか。あとから振り返って、「ああ、あれはNorovirusによるものだったんだ」と思うことは出来るだろうが、それではあまり意味がない。

身もふたもない現場の問題として、感染性胃腸炎のアウトブレイクが起こったときにもっとも頼りになるのは、現場にいる優秀な感染管理担当者なのかもしれない。

*1:近傍に外泊経験がある患者は除かれなければならない

*2:Rockx B et al. Natural History of Human Calicivirus Infection: A Prospective Cohort Study. Clin Infect Dis. 2002;35:246-253